今から10年前の、ちょうど今ぐらいの時期だったか…
私は、京王多摩センター駅に程近い「K」(現存)というパチ屋で、沖スロの「シオラー30」をペシペシ打っていた。
この店のシオラーは「32ゲームバージョン」で、ビッグ終了後の32ゲーム間が連チャンのチャンスというアツい仕様だった。
当時、「K」が裏シオラーを導入して少し経った頃で、まだまだ平気で万枚越えする台がゴロゴロ転がっていたのだ。
普段は、ノーマルのシオラーを、町田の「S」(閉店)というスロ屋で終日打ち倒していたが、たまたま「K」でシオラーの32Verに出会って以来、ちょくちょく打つようになった。
で、その日は良さげな台を掴めず、夕方頃には4万ほどの負債を作り、あえなく退店。
そのまま帰宅しようかとも思ったのだが、近くの系列店「C」(閉店)にもシオラーの香ばしい裏モノがある為、もう一勝負する事に。
「C」の前まで来ると、何やら長い行列ができている。聞けば、今日は夕方からの新装開店との事。「これは期待できる」と、そのまま列の最後方に並ぶ。
ふと、入口付近の貼り紙に目をやると、「本日、あの蛭子能収先生が一日店長として来店!」という告知が出ている。
その日、「C」ホールでは、新台「CR蛭子能収M」(高尾)の導入初日だった。それを記念して、台の考案者である蛭子さんをゲストに呼んだのである。
知る人ぞ知るマニアック台だが、源さん、モンスターハウス、海物語など、人気CR機の特徴を、見事に「取り入れた」事で話題となった(或いは、「パ〇リ」ともいうが…)。
また、蛭子先生自身も、丁度「ヘタウマな愛」という書籍を出版した頃で、その告知も兼ねていたのだろう。
蛭子能収「ヘタウマな愛」(2002年7月出版、KKベストセラーズ)
ともかくも、パチ好きで有名な漫画家のエビス先生に、ホール内で会える訳だ。さっき「K」で負けたばかりだが、何とも面白いイベントに遭遇したものだと、少し得した気分になる。
暫くして入店すると、あっという間にシオラーのシマは一杯に。やはり、誰もが新装の爆裂に期待しているのだ。
残っているのは、アラジンA、大花火、キンパル、サンダーVなどの25パイのみ。Aタイプ好きの私は、とりあえずサンダーVを確保。
パチのシマを見回すと、当然ながら新台の「CR蛭子能収M」は満席。
この店には、マジカルランプ(奥村)、ミルキーバー(ニューギン)、ダイナマイト(大一)、それにライフワーク(三共)といった古めの現金機もあるが、そちらも全て埋まっている。
まぁ、サンダーでマッタリ遊びつつ、蛭子先生のお顔でも拝見するか、と開店を待つ。
すると、突然店内が薄暗くなり、店員のマイクパフォーマンスが始まる。
「本日は、誠にご来店有難うございます。本日、当店は新台導入を記念して、あのTVで有名な蛭子能収先生を、一日店長にお迎えしました。短い間ではございますが、エビス店長が、皆様を精一杯サポートいたします。また、後ほど、新刊本の出版を記念してのサイン会もございますので、どうぞご期待下さい。」(註:記憶に基づく為、正確ではない)
そして、映画「スーパーマン」のBGMが流れ、正面入口の自動ドアから、おもむろにエビス先生が登場する。
黄色いハッピに鉢巻き姿のエビスさん、TVで見るよりも随分スマートに見える。「一日店長」のタスキをかけ、シマをダッシュで駆け抜けると、笑顔でカウンター横に到着。
「あ、こんにちは、エビスヨシカズです。えっと、今日は、皆さんの為に一生懸命頑張りますので、宜しくお願いします。」(註:記憶に基づく為…)
心なしか、場内は失笑ムードだが、私から見れば結構ツボに入る登場の仕方である。イメージ通りの朴訥な人だ。
そして開店となり、一日店長のエビスさんは、自身が考案した新台「CR蛭子能収M」のシマに陣取り、大当りが出る度に「おめでとうございます。おっと、確率変動で当りましたか。ジャンジャンバリバリお出し下さい。」と、あの独特のイントネーションでマイクパフォーマンスを披露。その後も、汗をかきかき精力的にホール内を動き回っていた。
私の方は、最初に座ったサンダーVで閉店まで粘り倒し、結局「K」でのシオラーの負け分を、半分ほど取り戻した。ただ、店内で蛭子さんと言葉を交わす事は、遂になかった。今思えば、絶対サイン会には参加しておくべきだったな…。
かつて「パチンコ必勝ガイド」で「とりあえずパチンコでも」という連載を持ち、王様手帖や漫画雑誌でも、独特のパチンコ4コマ漫画で我々ファンを楽しませてくれたエビス先生。個人的には、1992年に某・単行本へ寄せた「インテリパチンカー」という作品が好き。
そんなパチンコ贔屓の有名人と、わずかな間でも同じ空間でスロを打つ事が出来た…実に些細な事だが、10年経った今も思い出深い「事件」として、私の記憶に残っている。