私のことを「社長さん」と呼んでくれる、白髭橋のカレーの炊き出しに来るおばちゃんがいる。
いつも彼女は男性と炊き出しに来ていたが、先週の土曜日は一人で来ていたので挨拶をしてから話し掛けてみた。
すると、彼女は世田谷から電車とバスを使い、炊き出しに来ていて、一緒にいた男性は墨田区から来ているとのことだった。
二人がどんな関係かは聞かなかった、根ほり葉ほり聞くことは節度を超えていく、それよりも彼女の話したいことを聞く方が良いと思ったからだった。
彼女は二年ぐらい前から炊き出しに来るようになり、彼女が私のことを「社長さん」と呼んでいるのを知ったのは、昨年の五月のこと、インド・コルカタで会った友達を山谷に連れて行った時にことだった。
私は友達に彼女と話したらと言い、彼女に友達を紹介した。
話し終わってから、友達は彼女が私のことを「社長さん」と呼んでいたと教えてくれた。
彼女はその時のことをまだ覚えていたようで「奥さんは今日は居ないの?」としきりに私に聞いて来た。
「独身だよ」と言っても、「社長さんは目がパチッとしていて男前だから、一人じゃないでしょ」と言う。
そして「映画に出なさいよ。社長さん、カッコいいから」と言った。
「社長さんはどこから来ているの?」
「川崎だよ」
「国はどこなの?」
「国って?」
「生まれた国だよ」
「日本だよ」
「嘘でしょ!どこかの外国でしょ!」
「だって、日本語、上手いでしょ?」
「うん、良く勉強したんだね」
彼女は私をどこかの国から日本に来た者だと思っていた。
近くにいた女性のボランティアも冗談で「日本語、上手いでしょ!」と言うと、彼女は「ほんと!」と言って笑っていた。
心が通い合う面白い出会いだと思った。
さて、私は何人に見られるのだろうか。
私が何人に見られようと、私たちは微笑み合うことが出来るのである。
それを感謝せずにはいられない。