わにの日々-中西部編

在米30年大阪産の普通のおばさんが、アメリカ中西部の街に暮らす日記

捕獲されたシャチの真実:ブラックフィッシュ(Black Fish)

2014-01-23 | 映画・ドラマ・本
 ここんとこ、イルカ漁の件で熱く燃えているしろわにです。日本の太地町海豚の追込み漁が非難されている今、シーワールドで芸をしているシャチの現実を訴えるドキュメンタリー「Black Fish(公式サイト)」が、今年のオスカー候補から外れたと知り、これは観なあかんわ、と、決心しました。こういう映画観たら絶対、落ち込む、鬱なる、後を引くのは承知だけど、知っておきたいと思ったからです。映画の全編は、YouTubeから鑑賞できますが、私は図書館で借りてきました。観終わった今は、パキシル(抗うつ剤)丼ぶりで持ってこーい!って気分…


 これは、2010年にフロリダ・オーランドのシーワールドで、女性調教師、ドーン・ブランチョウさんを溺死させたシャチ、ティリクムを中心に、多くの元調教師や、その他専門家のインタビュー、裁判記録を通して、ショー・アニマルとしてのシャチをめぐる問題を問う作品です。ティリクムは1983年にアイスランド沖で捕獲されましたが、これは1979年にワシントン州沖で幼いシャチが家族から引き離され、捕獲された際の映像が発表され、ワシントン州沖でのシャチ捕獲が禁止された後のことです。この映像では、子シャチを奪われた家族が、網から出されてもその場を離れず鳴き続けているところが記録されています。シャチ捕獲に関わった人のインタビューが紹介されますが、タフそうな親父は「自分がしたことは、赤ん坊の誘拐だった」と声をつまらせます。

 ティクリムは1991年にも、カナダの「シーランド・オブ・ザ・パシフィック」で他2頭のシャチと共に調教師溺死に関与していました。1999年にはシーワールドに侵入した男性の遺体が、朝になってティクリムの背中に乗っているのが発見されています。これは、勝手に入った男が冷たい水で凍死したとされ、ティクリムが殺したわけではないらしいですが。たまにライオンとかトラの檻に入って食われる奴、いるよね。

 そして、2010年の事件。被害者の調教師は経験豊かなベテランで、本当にシャチを愛していたそうですが、それは彼女の生前の映像からも伝わってきました。事件のあった日、朝からティクリムは機嫌が悪く、命令に従わないと報告されていました。そして、事件直前にご褒美の魚が足りなくて、ティクリムが一層不機嫌だったことも。ティクリムはちょっと反抗したつもりが、何しか5千トンの巨大な動物ですから、「うっかり」殺しちゃった、ということらしいです。

 ティクリムは、飼育下のシャチの中でも最大で、現在、ショーに出ている多くのシャチの人工授精を通じた父親。捕まえられて水族館にいた頃、他の成体シャチの虐めにあったそうですが、これは野生のシャチには見られない行動だそう。でも、鯨の子供を殺す野生のシャチの群れの映像を観たことあるから、残虐性はあるんだよね。イルカだって集団レイプするし。野生のシャチが人間に危害を与えたという記録も、過去には全くない。っていうか、シャチさん的に、人間なんか襲うにも値しないんだろうな。アザラシやペンギンのほうが美味しいんでしょう。

 でも、捕獲されたショー用のシャチは、幼児の頃に群れから引き離され、狭いプールに閉じ込められ、無理やり芸を仕込まれて、ストレスがたまっているのが、野生では見られない行動の原因らしいです。また、野生では考えられないような病気や怪我により早死することが多く、寿命も短いのですが、シーワールドでは、観客に野生のシャチは水族館のシャチのほうが保護されているから長生きすると説明している。本来、野生では人間の寿命ほどは生きるシャチが、過大なストレスの捕獲生活したでは25-30年程度しか生きないにもかかわらず。

 ブランチョウさんの事件の際にも、シーワールドは最初は不慮の事故、その後にはブランチョウさんの過ちが原因(髪をポニーテイルにしていたのが悪い)と発表したけど、それは目撃者やビデオによって覆された。過去の事件でも、常に調教師の人的災害か不慮の事故であるとされてきた。ショーの最中に起こった件以外にも、多くの調教師が怪我をする事件があった。でも、それは公表されず、他の調教師にすら伝えられていなかった…

 これは色々な意味で辛い映画です。シャチたちの境遇も哀しいけど、シーワールドでショーを見て感動した全ての人々に突きつけられた現実が厳しすぎる。私も、シーワールドが海洋生物の保護や繁殖に貢献している、ショーに出ている動物たちは調教師と信頼関係にあり演技を楽しみ、恵まれた暮らしをしているという宣伝文句を信じていた一人です。だから、騙された!って気がして悲しい。ティクリムは、今も毎日ショーに出演し、ショーに出ていない時には狭い水槽の中に閉じ込められたままだそうです。この映画の反響で、ティクリムを引退させ、シャチのサンクチュアリ(保護養育域)である湾に話せという運動が起こっているそうです。その湾を描いた「The Cove」なら、とても観たい。この頃は動物園でも、動物たちの生活環境をより自然に近づけるために努力してるけど、巨大なシャチを「自然に近い状態」で飼育するには、広大な水域が必要でしょう。

 ナショナル・ジオグラフィックの「映画『ブラックフィッシュ』の波紋」では何故か「1月16日、アカデミー候補作品が発表され、この映画が長編ドキュメンタリー映画賞の最終候補作リストに入った」と書いてありますが、これは間違いで、本作品は一次審査は通過したものの、最終的な候補作品には選ばれていません。海に赤インクを流した自写映像を使い、漁師の談話を都合よく編集したフィクションの「The Cove」がアカデミー賞を受賞したのなら、なぜ、実際の元調教師の談話や記録映像を多く交えたドキュメンタリー、「Black Fish」はノミネートすらされないのか?

 その裏には、大企業であるシーワールドのからの圧力があったと囁かれています。だったら、「The Cove」も、日本政府が圧力かけたら無視されたのかしら?太地町役場の漁業担当者の方は、追い込み漁は地元の経済を支えており、「より人道的なを行っている。脊髄を切断するから血もでない。昔のようなはしていない」と述べています(元の記事は、ここ)。ケネディー大使始め、今回の太地町の年恒例イルカ漁に反対する全ての人たちに、この「Black Fish」を見て欲しい。で、かわいいイルカちゃんを殺すシャチは報いを受けて当然とか言い出したら、もう私は降参するしか無いけど。

 イルカの追い込み漁をしている人も、今では15人程度だそうです。スペインの闘牛も下火になってきているそうですし、数年のうちに、イルカ追い込み漁の伝統も失われるでしょう。若い世代には他の生活の糧があって、この伝統が失われてもそれはそれでいいのかもしれません。でも、今現在、これを生活の糧にしている漁師さんたちへの嫌がらせや妨害は、許されてはならないと思う。そんなにイルカを救いたいなら、太地町の漁師さんが捕まえたイルカを時価で買ってくださいな。シーシェパードはそのくらいのお金は持ってるでしょ?だいたい何百年も続いてきた慣習を、ここ数年で急に叩きだすのには、人種差別や、日本へのやっかみ、日本のやる事はなんでも叩きたいってのがあるんじゃないかって気がして不快。

 それに、鯨、イルカの次はマグロとかイカとか、次々いちゃもんつけてきそうなのも嫌だわ。サッカーの試合の結果を予想することさえ出来るタコなんて、いい標的じゃないかしら。盆栽とか、「植物の意思に反して枝を切ったり形を変えたりする虐待」って言い出しそう。だったら生きた花を取るのは残酷、生花なんかもってのほかだね。ああ、くわばら、くわばら…