わにの日々-中西部編

在米30年大阪産の普通のおばさんが、アメリカ中西部の街に暮らす日記

クリストファー・ノーラン新作・Dunkirk

2017-07-23 | 映画・ドラマ・本
 今週末は、スパイダーマンを見ようか、それとも猿の惑星か、はたまた怪盗グルー…と、迷っていたのですが、ラジオで聴いた評価があまりに良かったので、クリストファー・ノーラン初の史実に基づいた映画にして戦争もの(但し、Time誌のノーラン監督のインタビュー読んだら、これは戦争映画じゃなくって、サバイバルを描いた映画だって書いてあった)、第2次世界大戦最大の撤退作戦、ダンケルク大撤退を描いた「Dankirk」を観てきました。

 テーマとなっているダンケルクの戦いは、
第二次世界大戦の西部戦線における戦闘の一つで、ドイツ軍のフランス侵攻の1940年5月24日から6月4日の間に起こった戦闘である。輸送船の他に小型艇、駆逐艦、民間船などすべてを動員した史上最大の撤退作戦(Wikipediaより


 ドイツ軍のポーランド侵攻が始まりとされる第2次世界大戦開戦の翌年、ナチスドイツの怒涛の進撃に追い詰められ、フランスのダンケルクに包囲された40万人の英・仏兵の大規模撤退を、陸上(ダンケルクの浜で助けを待つ包囲された英仏軍)、空(救出船を攻撃するドイツ軍と戦う英国空軍のパイロット)、そして海(包囲された兵を救うためにダンケルクに向かう民間船)の3つから、個々に異なった時間枠で追っていきます。

 最初の場面は、陸で「Mole(もぐらとか、大きなホクロを意味しますが、二重スパイの意味も)」、一週間という文字が出ます。主要人物の一人である英軍兵士が仲間と一緒に、空っぽになった街を歩いています。空から降ってきた「お前たちは包囲されている」というビラを、チリ紙に使うために何枚かつかんでパンツに入れる。

左の画像は、当時の本物のビラです。
この地図を見ろ、これがお前たちが置かれている状態だ!
お前たちは完全に包囲されている。
戦うのをやめろ!
武器を降ろせ!

と、書いてありますが、映画のんは、もっと強烈で、はっきりと覚えてないけど、お前らすぐ死ぬぞ!って書いてあったと思う。それを観ても顔色も変えず、チリ紙にしようってくらい、兵士たちは、この包囲状況に慣れてしまった、と、いう意味でしょうか?

 その静寂から、一瞬にしての銃声。仲間であるはずの英国軍に銃撃され、最初の一団の中で生き残ったのは一人だけになります。敵か味方かも確認せずに撃っちゃうなんて、酷い話だけど、それだけ英国軍が追い詰められていたという事なのでしょう。

 この生き残った若い兵士は、クレジットでは「トミー」と名前がついていますが、映画の中では名前は出てこなかったと思う。トミーは浜辺で、もう一人の兵士と出会います。そこでドイツ軍の空からの攻撃があり、浜辺で列を作り、救出戦に乗る順番を待っている多くが倒れます。この二人は、虫の息の兵士を見つけて担架で運び、撤退中の病院船に辿り着きますが、お前は怪我人じゃないだろ、と、船から追い出されてしまい、次の機会を狙って、桟橋の下に隠れることに。この船は、桟橋を離れたとたんに攻撃されて撃沈。船には大きな赤十字がついているのに、容赦なし。

 この後、海 一日、空 一時間と続いていくのですが、どうやらこれは、この場面では、この時間枠ですよという説明らしい。海岸に囚われて一週間の兵士たち、その浜まで一日の距離にある船、そして一時間の戦闘機。舞台毎に、昼間になったり、夜になったり、また夜だったりと変化するので、最初は少し混乱しました。ある舞台がすごくハラハラする緊張場面で、さくっと別の舞台に切り替わってしまうので、あっちも気になる、でも、こっちも手に汗握る状況だ、で、で精神的に忙しい。今どき珍しい二時間以下(106分)の作品ですが、ずーっと緊張しっぱなしなので、見終わったら、どっぷり疲れた。

 ノーランお得意の、人物の表情のアップと、俯瞰の画面が効果的に使われていますが、IMAX撮影なので詳細までが見て取れて、さらに臨場感を高めます。映画を通して、台詞は極端に抑えられていますが、その代わりに、音が重要な役割を果たしています。この映画を見るなら、絶対!音響のいい劇場を選ぶのをお勧めします!!ハンス・ジマーの音楽も最強。

 陸のメイン・キャラクターである二人は、爆撃された船から投げ出された英軍兵士を救い出して3人組に。この3人目は、イギリスの人気ポップグループ、ワン・ダイレクションのメンバー、ハリー・スタイルズなのですが、そんなの知らなかったオバサンには、3人とも背格好は似てるし、来てるものは当然同じだし、髪の毛は3人とも黒だし、見分けがつかない。そこに「海」組が救出したショック状態にある兵士(後から分かったけど、ノーラン映画ではおなじみのキリアン・マーフィーでした)も似たような感じで、ますます混乱。でも、そこが「個人」ではなく、「Anybody」のストーリーであることを表してるのかな?

 一方、空では、ダンケルクに救出に向かう3機の英国空軍戦闘機。リーダーはとっとと撃墜され、トム・ハーディーの演じるパイロットは燃料系を撃たれて、後どれだけの燃料が残っているかをチョークで書き込みます。ほとんどマスクとヘルメットを被りっぱなしなのに、眼だけで緊張感をひしひしと感じさせる演技がすごい。この映画、桟橋で撤退を指揮する、ケネス・ブラナーの貫禄と安定感といい、兵士救出に向かう民間船の船長(正装している)と息子(男前だし良い子だし好きにならずにはいられない)、とジョージ(モブ顔)の3人の意志の強さ、そして兵士たちと皆、完璧な人選だと思いました。ちなみに今回、マイケル・ケインはいない。

 救出作戦の結末は、歴史の通りなのですが、最初に書いた通り、この出来事は第二次世界大戦開戦後、まだ間もないころ。救出されて、歓声に迎えられたトミーたちも、この先どうなるのか分からない。ダンケルクから脱出できずに、ドイツ軍の捕虜となった兵もいる。それは、ハリウッドの好きなハッピーエンドではありません…

 先のタイム誌のインタビューで、ノーラン監督は、ダンケルクはイギリス人にとって、遺伝子に組込まれてるってほど重要な出来事なのに、今まで映画化されなかったのは、製作にはハリウッドの資金を必要とするけど、アメリカ人が出てこないから、と、答えてました。でも、お金のためにワケもなくアメリカ人を物語にねじ込まなくってよかったと、映画を見た人の殆どが思うんじゃないかな。お話は、史実を舞台にした架空の物語だし、登場人物も、撤退指揮官のボルトンにモデルとなった人がいたくらいで、後は皆、脚本を書いたノーラン監督が生み出したキャラクターです。でも、そこには「史実」が描かれてると思うの。

 臨場感に溢れた骨太な作品で、快適な劇場に座ったままに、陸海空から救出・脱出を疑似体験できるような、「これが映画の醍醐味!」と、思える作品でした。疲れたけど、満足。特に今回、IMAXではないけど、通常より大きな画面を有し、椅子がリクライナーの、デラックス・シアターで見たんだけど、クセになりそうです。建物内にバーがあって、飲み物を持って入れるし、IMAXだと画面広すぎて、端の方までじっくり見れない気がするんだけど、ちょうどいい大きさだったし、音はいいし… こんな劇場が近くにあるなんて、ラッキー。楽しみにしてる映画、たくさんあるから、わくわくするわv