千曲川のうた

日本一の長河千曲川。その季節の表情を詩歌とともに。
人生は俳句と釣りさ。あ、それと愛。

おにふすべ

2019年08月25日 | 千曲川の植物
8月中旬に雨が続いたためでしょう、オニフスベがたくさん生えてきました。


小さくて、真っ白で、かわいい茸です。


マッシュルームのような外見。


草地に出て来ますが、丈の高い草があるところにはなくて、堤防上のアスファルトのすぐ脇に並んでいます。


毎日少しずつ大きくなっています。


数日前は純白だったのですが、

中央部の色がちょっと変わってきました。


オニフスベは大きいものではバレーボールくらいに成長するそうですが、私がこれまでに見た中で最大の奴は20cmくらい。一部が茶色に変色し、発泡スチロールの切れ端のような感じでした。
今出ているのは、さてどのくらいになるでしょうか。お天気次第です。


さてここで、オニフスベという名前について考えてみたい。

Wikipediaは「フスベ(贅)とはこぶ・いぼを意味する」としています。
これに倣ったものかどうかは分かりませんが、ネット上では「ふすべ=瘤」という記述がたくさんあります。
この茸が大きく脹れるので「鬼のたんこぶ」に見立てたネーミングだというのでしょう。

この説の起源はおそらく牧野冨太郎のエッセイにあります。彼はふすべ=瘤を主張し、「オニフスベは鬼の瘤の意であると推考せられ得る。瘤々しくずっしりと太った体の鬼のことだから、すばらしく大きな瘤が膨れ出てもよいのだ。」と言います。
何しろ牧野博士は大家で権威者で偉い人ですから、思いつきの説も絶対化されがちですが、でもこれは間違っていると思います。
博士の「スミレの名は大工道具に由来する」という珍説と同じです。

「ふすべ」は「燻べ」であって、煙でいぶすことです。
例えば、穴に居る狸を追い出すために杉の葉を焚いていぶり出す、それが「ふすべる」です。

牧野博士は「鬼を燻べるということだと解する人があったら、その人の考えは浅薄な想像の説であるように私には感ぜられる。」というのですが、根拠は示されません。


オニフスベはケムリダケとかホコリダケと呼ばれる茸の仲間で、成熟したものを打ったり踏んだりすると大量の黄色い胞子が煙のように吹き出します。ここから、「ふすべているようだ」と言うので名付けられたと考えるのがリーズナブルではないでしょうか。
そして煙茸の類で最大なので「鬼」が付いているのでしょう。単に大きいという意味なのか、あるいは「鬼をもふすべる」ということなのかも知れません。

  焼立る野や草の名のおにふすべ  友也(「糸屑」)
どうも古俳諧はむずかしいですが、近世の俳人が「燻べる」に由来する名前と認識していたことはこれで分かります。



これに関連して、太宰府天満宮で「鬼燻べ」という行事が行われていることにも興味を引かれます。
火を焚いて鬼を追い立てるもので、「おにすべ」と呼ばれていますが、燻の字が使われていますから「おにふすべ」の転と見て良いでしょう。

  鬼すべの火に初髪をいたはりぬ  磯貝碧蹄館