午後から雪がちらつき始めた。さほどの積雪にはならなかったのは幸だった。
配達、宅配など運送を生業にする人たちにとっては辛い日である。視界は悪く道路は滑り、仕事を終え愛する人が待つ家庭に無事帰っただろうか、ふと家族のことが脳裏に浮かぶ。
雪の中、車を走らせてるとあるドラマのシーンが、まるで自分が主人公になったみたいに。
居酒屋の格子戸をガラリと開け、肩に積もった雪を掃いながら一人の中年の男が顔をのぞかせる。「やけに降るね、今夜は。積もりそうだよ。」色白のうら若い女将はにっこりと微笑み返す。男はおもむろに空いたカウンターの席に着き出されたグラスの酒を口にし始めた。
居酒屋の格子戸がおと静かに開く。着物姿の良く似合う女が一人肩に積もった雪を掃いながら入ってくる。淀んだ居酒屋の空気が一瞬にして華やかになる。私は女の姿を目で追う。きっと常連客なのか、隅に空いたカウンターの席に座り、出されたグラスの酒を口にし始めた。
ちあきなおみの「伝わりますか」が妻の部屋から聞こえてきた。
淡い紅を かるくのせて
思いで追えば 娘にかえる
恋を知れば 夜が長い………..
また明日も雪みたいだ。 今夜も遅い、寝ることにしよう。