警察小説。主人公は杵築の武家屋敷「大原邸」の職員として勤務する28歳の女性、波田野七海。大分県杵築市では中秋の名月に幻想的な光に包まれる「観月祭」の開催を前に、街は活気に満ちていた。しかし、祭りの一週間前、大分県警別府中央署刑事首藤涼の恋人で地元の名産品七島藺(しちとうい)作家の波田野七海が突如襲われる。その翌日には、七海の顔なじみのパン屋の妻、熊坂久美が絞殺体で発見される。さらにこの殺人事件と時を同じくして、東京の多摩川沿いで首なし死体が見つかる・・・。杵築と東京。遠く離れた2カ所で起きた、一見無関係な殺人事件が結びついたとき、20年前歴史の水面下で繰り広げられてきた、国家とその敵の壮絶な暗闘が浮かび上がる。「観月祭」の準備が進む杵築の城下町を主舞台に、旅情ミステリーの体裁をとりながら、公安警察のリアルに迫った謎解きだが、ツッコミ処有のリアリテー欠如が気にかかった。
2020年12月文藝春秋刊
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