読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

篠田節子著「四っの白昼夢」

2025-01-03 | 篠田節子
コロナ禍がはじまり、終息に向かった。これは目眩? 日常の隣にある別世界。分別盛りの人々の抱えた困惑と不安をユーモアと活力あふれる文章で描く四つの中編集。
ミステリー、人間ドラマ、ホラー、ファンタジー。売れっ子イラストレーターの妻、音楽家の夫。30代の夫婦が不動産屋の仲介で移り住んだ理想の家。しかし夫が出張中のある夜、天井から異様な物音がする。気のせいかも、事故物件か。そしてある日、夫婦は隣家の秘密を知ることになる。・・・「屋根裏の散歩者」
酔い潰れ、夜更けの電車内でヴァイオリンを抱いて眠る老人が、慌てて下りていったさいの忘れ物は、なんと遺骨だった。有名なピアニストと再婚した「才女好き」と噂された公務員の男の、四十年に及ぶ家庭生活に、秘められたものはいったい何だったのか。・・・「妻をめとらば才たけて」。
 亡き父の後を継いだレストラン経営がコロナ禍で破綻に瀕している。家庭がきしみ始め、しっかり者の母が倒れ、妻は子供を連れて出て行く。負の連鎖の中でどん底の男が、はまった沼は、因縁付きの謎の植物。完璧なフォルム、葉の緑のグラデーション。マニアの世界は地獄より深かった。・・・「多肉」。知症の義母が亡くなりようやく見つけた葬儀用の遺影。素敵な笑顔のしかしその肩先には人の手が写り誰も知らない男が一緒に写っていた。背景からすると、近くの動物園で撮影されたようだ。慎ましく物静かで、実の娘息子にも本音を語ることのなかった人の心の内にあったものは何だったのか・・・「遺影」現実と非現実の裂け目から見えた、普通の人々の暮らしと日常の裏側。人の心の不思議と腑に落ちる人生のリアリティにあふれる力作です。



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