インドネシアのブラガダンにあるらしい架空の火山島「ネピ島」が舞台。そこに顔立ちと体格はインドネシア人なのにアラビア系と自認しているイスラム教徒が11世紀から住みはじめ、島の反対側のサンゴ礁に囲まれた入江には、イスラム教徒から首狩り族として差別されている部族が住んでいる。そこに、大手ゼネコン勤務だった主人公、賀茂川一正が偶然訪れ、サンゴ礁の側に海のボロブドォールとも呼べる水中遺跡らしきものを見つける。やがて、今は武蔵野情報大学国際交流群国際貢献学科の講師となった一正が、日本の考古学者の静岡海洋大学の藤井准教授や文化人類学者の同大学特任教授人見淳子を誘って現地調査に乗り出す。しかし出発前日には3番目の妻が離婚届を残して家出して3度目の離婚。さらに、現地の部族の風俗習慣と他住民間の対立、インドネシアの遺跡保護の問題、火山の爆発兆候と津波、イスラム過激派と様々な邪魔が現れて、話は展開する。インドネシアのボロブドールをはじめとする仏教遺跡の保護政策の現状やイスラム化する以前の仏教時代、ヒンドゥー教時代のことも詳しく興味有る者には面白い。「海中考古学」「建築史」「遺跡発掘、保存と開発」工学・政治的要素、と「日本人と現地人の軋轢」といった文化人類学的見地からも薀蓄が語れられているが、登場人物の記載に生活感と深みがなく誰にも感情移入出来ずに、また最後まで火山オチの不安が頭によぎり充分楽しめなかった。
2023年8月新潮社刊
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