社会派ヒューマンミステリー小説。前作『護られなかった者たちへ』から続く「宮城県警シリーズ」第2弾。宮城県警捜査一課を舞台に、東日本大震災による行方不明者と個人情報ビジネスという復興の闇を照らし出していく。震災によって引かれてしまった“境界線”に翻弄される人々の行く末は・・・。
2018年5月某日、気仙沼市南町の海岸で、女性の変死体が発見された。女性の遺留品の身分証から、遺体は宮城県警捜査一課警部・笘篠誠一郎の妻だったことがわかる。笘篠の妻は7年前の東日本大震災で津波によって流され、行方不明のままだった。遺体の様子から、妻と思われる女性はその前夜まで生きていたという。なぜ妻は自分のもとへ戻ってこなかったのか。笘篠はさまざまな疑問を胸に身元確認のため現場へ急行するが、そこで目にしたのはまったくの別人の遺体だった。妻の身元が騙られ、身元が誰かの手によって流出していた。やり場のない怒りを抱えながら捜査を続ける笘篠。その経緯をたどり続けるもなかなか進展がない。そのような中、宮城県警に新たな他殺体発見の一報が入る。果たしてこのふたつの事件の関連性はあるのか。そして、笘篠の妻の身元はなぜ騙られたのか・・・。「生者と死者」「残された者と消えた者」「売る者と買う者」「弧高と群棲」「追われる者と追われない者」の境界。
震災は人の心も倫理も全て流し去ってしまい、人の関係も分断してしまった。悪人と思われた人が悪ではなく、善に生きた人が悲しみのなか堕ちていく様子が切ない。
「誰にでも境界線がある。越えるか、踏みとどまるか」著者・中山七里
2020年12月NHK出版刊
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