深く潜れ(Dive Deep)! キネシオロジー&クラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)の蒼穹堂治療室

「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

光の家

2021-07-25 23:43:49 | 趣味人的レビュー

ロバート・エガース監督、A24制作の映画『ライトハウス』を見た。日本語版のタイトル『ライトハウス』は、よくある原題("THE LIGHTHOUSE")をカタカナ表記しただけのものに見えるが、日本語版タイトルを『灯台』としなかったのには十分な理由がある、と私は思っている(あまりネタバレになるようなことは書きたくないので深くは触れないが、"lighthouse"は意味としては「灯台」だが、直訳すると「光の家」となる)。

舞台は1890年代。絶海の孤島に霧笛を響かせて建つ灯台。そこに2人の男が4週間の間、灯台守を務めるためやって来る。初老の男と、やや若い男。元船乗りだという初老の男は灯台守としても経験があるからと、やや若い男に絶対服従を強い、過酷な重労働は全て彼に押しつけ、その間ずっと灯室に籠もっている。出入り口には鍵をかけ、やや若い男が入ってこられないようにした灯室の中で、初老の男は何やら奇妙な行為にふけっているらしい。理不尽を重労働を強いられるやや若い男は不満を怒りを募らせながらも、灯室には何があり、そこで初老の男が何をしているのか、気になって仕方がない。と同時に、毎日延々と続くキツい肉体労働は彼の肉体と精神を消耗させ、得体の知れないものを見るようになっていく。一体それは現実なのか、彼の妄想なのか? そして大しけが島を完全に閉ざし、2人の肉体と精神が限界を超えた時、物語はクライマックスへ。そこで男が最後に見たものとは何か?

公式サイトによると、この作品は1801年にイギリスのウェールズで実際に起きた事件がベースになっている、とのことだが、「1901年」の間違いかもしれない。

一応ジャンルとしては、ホラーあるいはスリラーに分類されるのだろうが、よくある“分かりやすい怖さ”など1シーンもないので、小説で言う“行間を読む”ように見られる人でないと、「2人のむさいオッサンを延々見せられるだけの、よく分からない映画」で終わってしまうだろう。

この物語のキモは、「閉鎖空間の中での孤独な生活は人の心身を蝕んでいく」ということだろう。そういう環境に長くいると、人は知らず知らずのうちに異常な妄想へと取り込まれていくのかもしれない。ちょうど連合赤軍やオウム真理教がそうだったように。この『ライトハウス』が意図しているのは、観客を擬似的にそうした環境に追い込み、2人の男(の、特にやや若い男)が見る現実とも妄想ともつかない異常な精神状態を追体験させること、なのだと思う。ただ、それは観客がどれだけ登場人物とシンクロできるかにかかっているわけで、その意味で「見る人を選ぶ」映画であることは間違いない。

そしてまた、映画はしばらくすれば円盤が発売され、ネットでも見ることができるようになるが、はやり『ライトハウス』は映画館という閉ざされ、観客が好き勝手に映像を止めたり戻したり先送りしたりできない、いわば拘束された不自由な場所で見てこそ、その本質が分かる作品であると思う。

さあ、映画『ライトハウス』を見ようとする人よ、何の希望も救いもない真っ暗な「光の家」へようこそ。


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