『鬼滅の刃 遊郭編』が無事最終回を迎えた。もう既にあちこちで言われていることだけど、バトルシーンのクオリティが半端なかった。「遊郭編」は全11話で、バトルシーンが始まったのが4話の終盤くらいからで、そこから10話の終わりまで延々バトルシーンが続くのだが、全く飽きさせない。それどころか回が進むたびにより凄みを増して、まさしく今、日本でトップを走る制作会社ufotableの実力を見せつける作品となった。
そういうわけで「遊郭編」は、アニメーションのクオリティが「別次元」と言えるほど突き抜けていた。けれど、そういったものを取り去った時、まだ見るべきものがあったか?といえば、答えはNOだ。
「遊郭編」の物語は、「遊郭に潜んでいた鬼を鬼殺隊が退治する」という単純なものだが、それが悪いわけではない。むしろマンガやアニメに限らず、物語は単純なほどいい、と私は思っている。問題は物語の細部がきちんと構築できていないことにある。
この先は「遊郭編」についてのネタバレを含むので、それでもいいという人のみ。
『鬼滅』の原作は「ジャンプ」に連載されたマンガである。「ジャンプ」は毎号の読者アンケートの結果を基に「人気のない作品は10週で連載打ち切り」を方針にしているから、どうしても掲載作品は読者の興味を引きつけるため「強い敵」、「派手な展開」に頼りがちになる。結果、当初の物語設定がどんどん崩れ、細部がおろそかになり、場当たり的な展開を繰り返すようになる。『鬼滅』も一時は人気が落ちて連載打ち切りか?というところまで追い詰められながら起死回生を果たし、その後は安定した人気のまま完結した、と聞いているが、それでも「遊郭編」を見る限り「ジャンプ」作品の悪しき傾向と無縁ではいられなかったようだ。
例えば、アニメでは「無限列車編」へと続く第1期の最終話で、我妻善逸(ぜんいつ)が竈(かまど)門炭治郎と嘴(はしびら)平伊之助に、「(大正時代である)今はもう廃刀令が施行されている。鬼殺隊は公に認められた組織ではないので、刀を持っているのを見られると困るから隠せ」と指示する場面がある(実際、この回では3人が刀を持っていることで警官から追われるシーンもある)。ところが「遊郭編」では、夜とはいえ鬼殺隊の面々が吉原の往来で堂々と刀を振り回している。
ちょっと考えてみてほしいのだが、顔に大きな痣のある男や頭を派手に黄色に染めた男、上半身裸で頭に猪のかぶり物をした男たちが町の真ん中で日本刀を振り回し、その周りでは何軒もの店が壊され、鋭利な刃物で傷を負ったと覚しき数多くの重軽傷者がいたら、状況証拠から見てその者たちがやったと推定されるだろう(何しろ、人食い鬼が密かに人々を襲っていて、それと戦っている者たちがいるなど、一般の人たちは知るよしもないのだから)。しかも、その直後に吉原全体が焼失するほどの大火まで起こっている(その割に、警察や消防が駆けつけた形跡が全くないのが解せないが、来ても(特に上弦の)鬼相手では役に立たなかっただろうし、それは問わないことにするが)。となれば、これは吉原あるいは東京という、いち自治体の問題ではなく、普通に見てもう国が乗り出すような重大事件である。
当然、国軍や国家警察は炭治郎たちの行方を追い、ほどなく鬼殺隊へと辿り着くはずだ(国家の力を舐めてはいけない)。更に、鬼殺隊を名乗る者たちはあの「無限列車大破事件」にも関与していた疑いがあること、その後も何者かの指示を受けて、禁止されているはずの日本刀などの武器を携えて各地に出向いていること、彼らがが行くところでは住民の不可解な失踪や連続死が起こっていることが分かるだろう。そこから(上にも述べたように、ごく一部の人間を除けば鬼云々の話など誰も知りはしないので)国軍や警察(すなわち国)にとって鬼殺隊は、国家転覆を企てる某国の特務機関か狂ったカルト教団のような存在ということなり、強制捜査の上、関係者を全員拘束し尋問、それができなければ国家の威信をかけて鬼殺隊との全面戦争、ということになる(何しろ大正時代の話だから)──と、今のままだと、この後の話の展開はこうならなくてはならないはずだ。
え、鬼殺隊本部の方で隠蔽工作をしてるはずだって? 無限列車の時は、乗客がみんな寝てたのでまだ何とかなったけど、今回は周囲との行き来もない地方の小さな村ではなく天下の吉原が焼失し、多数の死傷者も出てるから、それは無理。しかも、自力で町の外に逃げ出した者も多数いたはずで、彼らは事情聴取で鬼殺隊に忖度する理由もないしね。
結局、この「遊郭編」は物語として無理筋過ぎて、ufoの分厚いバトルシーンがなければ到底見られるようなシロモノではなかった。『鬼滅』については既に「刀鍛冶の里編」のアニメ化も決まったようだし、私はこの先も見るつもりだが、それはufoのアニメーションに期待して、ということであって、もはや物語そのものには何も期待していない。
ところで、妓夫太郎の元ネタはジョージ秋山の『アシュラ』だろうか?
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