深く潜れ(Dive Deep)! キネシオロジー&クラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)の蒼穹堂治療室

「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

解剖学書を買い直す

2022-11-08 18:54:59 | 一治療家の視点

気がつけば使っている解剖学書がボロボロで、本として壊れかけた状態になっていたため、新しく買い直した。

これまでメインで使っていた解剖学書は、カイロプラクティックを学んでいた時に指定教科書として購入した、文光堂の『解剖学アトラス第3版』だった。買ったのは確か1997年だったと思う。何と、それから25年が経過(!)して、本もかなり傷んだ。
ただ傷んだのは「それだけ熱心に勉強したから」というよりは、ほとんどが経年劣化によるものだと思われる。医学書というのはとにかく大きくて重いので(特にハードカバーは)、ただ置いておくだけでも自重で少しずつ壊れていくのだ。

文光堂の『解剖学アトラス』は、解剖学書としては全体をくまなくカバーしているという意味で、初学者から使える非常にバランスのいい本なのだが、逆にある部分をもっと詳しく知ろうとすると、途端に情報不足で物足りなくなってしまう本でもある。収められている解剖図も、詳しさという点では「ネッター」や「プロメテウス」などに比べると、どうしても見劣りしてしまう。

というわけで、買い直すにしても何を選ぶか、というところで多少迷ったものの、解剖図だけでなくそこに詳しい解説が付されている点が捨てがたく、結局、同じ文光堂の『解剖学アトラス原書第10版』を買った。ちなみに、この『解剖学アトラス』はドイツで出版されている『TASCHENATLAS DER ANATOMIE』の日本語版だ。先の「第3版」は原書の改訂増補第3版を訳出したもので、日本では1990年に出た。そしてこの「原書第10版」は2012年に出ている。

先の「第3版」とこの「原書第10版」を比べると、ページ数は「第3版」が約620ページであるのに対して「原書第10版」は約700ページで、80ページほど増えた。主要な図や説明文は(モノクロだったものがカラー化されたり、段組みなどが改められて読みやすくはなっているが)ほぼ「第3版」のままで、一見しただけでは何が変わったのかよく分からないが、「訳者序文」によると、

Ⅱ内臓に「妊娠とヒトの発生、発達」が書き加えられた。この他にも多くの内容が追加、さらに補筆され、「臨床関連」の拡充が図られた。Ⅲ神経系と感覚器では、近年恐ろしい程の勢いで発展しつつある神経解剖学の研究方法について言及せざるを得ず…

とある。

ところで、確かゼロ年代の後半くらいだったと思うが、クラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)をやっている治療家が色めき立つ出来事があった。それは解剖学における脳脊髄液(CSF)の循環経路についてで、これまではCSFは脳の脈絡叢で産生され、脳室などを巡った後にクモ膜顆粒から静脈へと排出される、とされてきたのだが、そこに研究者から「本当にCSFはクモ膜顆粒(だけ)から排出されるのか?」と疑問が示されたのだ。そうしたことを受けて、(一部の)クラニオ施術者が「大変だ~、解剖学書の記述が間違ってる~! 世界中の解剖学書は書き直されなければならない~」と騒いだのである。
その後、この件は確かに研究者が指摘したように、CSFはクモ膜顆粒(だけ)から静脈に排出されるというのは合理性に欠けることはほぼ認められたものの、CSFがどこから、どういうふうに排出されているのか、現時点では明確な結論は出ていない(が、そのことがクラニオの施術に何か影響したということもない)。

そんなわけで、この件を思い出してCSFの循環についてどう書かれているか少し気になったので、改めて『解剖学アトラス』の該当箇所を見てみた。記述は「第3版」から変わっておらず、

髄液の静脈血行への導出は、一部は静脈洞に突出しているクモ膜顆粒で起こり、一部は脊髄神経の起始部でも起こる。

クモ膜顆粒は最もしばしば上矢状静脈洞と外側裂孔(中略)にみられる。この顆粒のところで髄液が静脈血に移行するといわれている。

となっていた。少なくとも「CSFはクモ膜顆粒(だけ)から静脈に排出される」のように断定的に書かれてはいないから、書き直す必要もなかったのだろう。そう考えると、当時のあの騒ぎは何だったのだろう?と思わずにはいられない。

ちなみに、このCSFの排出問題では、脳にはクモ膜顆粒とは違う、グリア細胞が行うリンパ排出機構が存在する、という考え方が提唱されている。これはグリアによるリンパ系的機能(リンファティック)ということで、グリンファテッィク・システムと呼ばれるが、なにぶんまだ仮説なので、『解剖学アトラス』(を含め多分、ほとんど全ての解剖学書)には載っていない。
ただグリア細胞(神経膠細胞)は上に述べたグリンファテッィク・システム仮説もそうだが、今、脳研究において非常に重要な位置づけを持つようになっていて、それを受けてか「原書第10版」でも神経膠の項が比較的大きく書き改められている。

解剖学は(少なくとも表面的には)ほとんど変わることはないので、解剖学書も一度買えばそれが一生使える、と思っていたが、新しく買い直して分かる変化もあるということが、今回改めて分かった。


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