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「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

アニメ『美少年探偵団』は美しい

2021-07-10 15:36:09 | 趣味人的レビュー

2021年のアニメも既に夏期に入ってしまっているが、ちょっと春期のアニメについて書いておきたい。

春期も週14本(これは最後まで見た数で、それ以外に途中切りしたものが2本ある)のアニメを見てきて、よかったもの、期待外れだったもの、さまざまなだったが、個人的に最も面白かったのは意外にも『さよなら私のクラマー』と『美少年探偵団』の2作だった。『さよなら~』は、TVシリーズの前日譚を描いた劇場版まで見に行ってしまったが、今回取り上げるのは『美少年探偵団』である。

原作は西尾維新、アニメ制作はシャフトで、『化(ばけ)物語』から始まるあの〈物語〉シリーズと同じ組み合わせ。そして作品のクオリティも〈物語〉シリーズと比べても何ら遜色のない出来だったにもかかわらず、(私の知る限り)ほとんど話題にならなかった。(あるいは〈物語〉シリーズが個性豊かなヒロインが中心だったのに対して、今作は「美少年」というのがネックだったのだろうか?)

内容について少し触れると、〈物語〉シリーズは高校が舞台だったのに対して『美少年探偵団』の舞台は中学校(私立指輪学園中等部)だ(なのにキャラクタのデザインは〈物語〉シリーズのそれよりずっと大人っぽいのが笑える)。その美術室を団室とする美少年探偵団に2年女子の瞳島眉美(どうじま まゆみ)が依頼に訪れる。「私、星を探しているの」と。もちろん眉美が探しているのは「星さん」という名前の人ではなく、夜空に輝くあの「星」だ。「10年前に一度だけ見えて、その後見えなくなった星を探して欲しい」──それが彼女の依頼だった。そしてそこから第1エピソード「きみだけに光かがやく暗黒星」が始まる。

〈物語〉シリーズは「怪異」がモチーフの怪異譚(あるいは伝奇)だが、『美少年探偵団』は本格謎解きミステリだ。そして本格謎解きミステリには2つの要素が必要だ。それは「魅力的な謎」と「意外な真相」である。アニメ『美少年探偵団』は「きみだけに光かがやく暗黒星」、「ぺてん師と空気男と美少年」、「屋根裏の美少年」、「押絵と旅する美少年」、「D坂の美少年」の5つのエピソード(ちなみにタイトルは全て江戸川乱歩作品のタイトルのもじり)で構成されていて、いずれも「魅力的な謎」と「意外な真相」が用意されている。けれど特に最初の2つのエピソードは、「意外な真相」があまりにも意外すぎるというか、想像の斜め上を行きすぎて、むしろクソと言っていいほどで、この頃までは『美少年探偵団』もそろそろ切ろうかと思っていたくらいだ。が、残り3つのエピソードは、クソはクソでも評価できる美しいクソになっていた。

さて、ここで「眩しいほどに美しい(笑)」美少年探偵団の美少年たちを紹介しよう。
咲口(さきぐち)長広:美しい声と人を魅了する演説で、指輪学園中等部の生徒会長を務める、人呼んで「美声の長広」。ロリコンとの噂も。
袋井満(みちる):学園の番長とも言われる名うての不良だが、実はプロ級の料理の腕を持ち、団の料理担当。人呼んで「美食の満」。
足利飆太(ひょうた):陸上部のエースで、いつも短パンをはいて自慢の両脚を見せびらかしている、人呼んで「美脚の飆太」。
指輪創作:指輪学園の経営母体である指輪財団の将来の後継者にして、芸術家。人呼んで「美術の創作」。とにかく寡黙。
双頭院学:彼らを束ねる団長。常に「美しくあること」を追求している、人呼んで「美学の学」。
そして美少年探偵団の団則:1.美しくあること、2.少年であること、3.探偵であること。

ここ最近のシャフトの制作する作品は、『Fate/Extra Last Encore』にしろ『マギアレコード』にしろ『アサルトリリィBOUQUET(ブーケ)』にしろ全然パッとしなかった。その一番の原因は、どの作品もシナリオが弱くて物語の輪郭が曖昧で、何をしたいのかよくわからないものになっていたことにある(実際、Youtubeでそれらの作品のハイライトシーンを集めた動画は何度繰り返し見ても飽きないほどの出来映えだが、いざそれらのシーンを物語の中で見ると、途端につまらなくなってしまう)。

そのシャフトが『美少年探偵団』で久々に輝きを取り戻したのは、(〈物語〉シリーズと同様に)シナリオに原作である西尾維新の小説をほぼそのまま使っていたからだ。やはりシナリオに力があるとシャフトは強い。とはいえ、「そのくらい力のあるシナリオなら、別に制作はシャフトでなくてもよかったじゃん」というと、そうではない。

西尾作品といえばダジャレや韻を踏むといった言葉遊びの面白さで見せるセリフ劇であり、本来アニメ向きの作品ではない。それをシャフトは紙芝居のような動きの(少)なさと抽象的なイメージの羅列によって、西尾テイストそのままにアニメ化してみせた。animationという言葉の意味は「命を吹き込むこと」であり、だからアニメ/アニメーションは「動かしてなんぼ」の世界。だがそこに「敢えて動かさない」ことでアニメ化する、という発想を持ち込み、ちゃんと魅せる作品にしたのがシャフトという会社だ。

もちろんシャフトは「動かす」アニメが作れないわけではない。それはこの公式がアップしているOPを見れば一目瞭然だ。

で、『美少年探偵団』に話を戻すと、第6話以降の第3エピソードからは個人的に文句なしの出来だったが、何より素晴らしかったのは最終話である第12話だ。最近のアニメは視聴者に受けたら続編が作れるようにするためか、「え、これで終わり?」みたいなモヤモヤした終わり方をするものばかりが多い中、この『美少年探偵団』第12話は「最終話としてこれ以上ない」というくらい見事な美しい──そう、ここは「美しい」という言い方がふさわしい──終わり方で(しかもその上、続編も作れるようになっていて)、私はそこに惜しみない称賛を贈りたい。

で結局、何が言いたかったかというと、『美少年探偵団』は美しい、ということだ。それにしても沃野禁止郎(よくや きんしろう)、お前は一体誰だったんだ!?


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