2020年冬期もそろそろ終わろうとしている。今期も週10数本のアニメを見ているが、その中のベスト1は間違いなく、3人の女子高生が「最強の世界」を実現すべくアニメ制作をする『映像研には手を出すな!』だ。
アニメでアニメ制作の話を描く、というと『SHIROBAKO』という前例がある。この『SHIROBAKO』は、毎週辛辣なアニメ批評を配信している某アニメYouTuberが手放しに絶賛する作品で、私も(本放送は見なかったが再放送で、第1話を除いて)最後まで見ている(だけでなく、TVシリーズを見たからということで劇場版まで見に行った)。ただ、私にはTVシリーズも劇場版も、よくある「お仕事もの」の1つにしか感じられず、アニメ制作会社という舞台設定は斬新ではあるものの、見ていてあまり乗れなかった(アニメに限らずドラマでもドキュメンタリーでも、私の作品に対する評価基準は「録画したものを何度も繰り返し見るか/見たくなるか」、「容量の関係で録画を消去する時、ためらいが起こるか」で評価するが、『SHIROBAKO』は1回見たらためらいなく消してしまえた)。
対して『映像研には手を出すな!』は、情報量がパないせいもあるが、何度見ても飽きることがない。監督は湯浅政明。私は湯浅作品は『ピンポン THE ANIMATION』と『夜は短し歩けよ乙女』くらいしか見ていないのだが、作品の持つリズムが秀逸で、見ていると心が丸ごと持って行かれる感じがする。それは『映像研』でも同じで、それが一番生きているのが、クリエイターの頭の中だけにある、まだ十分な形になっていない「最強の世界」(=脳内でイメージ/妄想された、まだ見たことのないビジョン)が映像として現れるシーンだ。その部分はもう第1話など“神がかってる”と言っていい。
『SHIROBAKO』でも制作途中のアニメが出てくるが、『映像研』では制作途中のものだけでなく、制作に入る前のまだ妄想段階のものまで出てきて、彼女たちの目指す「最強の世界」を視聴者が共有できる仕掛けだ。
そして、高校で映像研を立ち上げてアニメ作りにばく進する3人娘の役割分担もとても上手い。
浅草みどり:アニメオタ。人見知りで人付き合いが極端に苦手だが、妄想癖があって世界観を作り出すのが何よりも好きな天才肌。アニメ制作では彼女が実質的な監督で、作品コンセプトと演出を担当。
水崎ツバメ:有名なカリスマ読者モデル。両親は俳優で、小さい頃から演技のレッスンを受けてきたが、本当は俳優には興味がなくアニメーターになるのが夢。「ものの動き」を捉え、それを表現することに秀でる。
金森みゆき:アニメ自体には関心はないが、並外れた商売の才があり、浅草、水崎と組んでアニメ制作をやり、一山当てたいと目論んでいる。口が達者な理論家で、生徒会や他の部との交渉事や、アニメ制作の進捗管理などを担う、プロデューサー役。
この3人を軸に、「生徒会には手を出すな」と言われる怖~い生徒会や、事なかれ主義で映像研の活動を押さえつけようとする教師たち、また映像研のアニメ制作に関わることになる美術部、音響部、ロボ研の面々などが画面を所狭しと動き回る。
ところで、アニメではよく視聴者サービスのための「水着回」があったりして、『映像研』でも浅草、水崎、金森の女子高生3人娘の銭湯での入浴シーンが出てくる回がある。けれど『映像研』が凄いのは、そこに色っぽさもエロさも微塵もない、ということだ。元々、エロさを感じさせるようなキャラデザではないけれど、それを差し引いても、そこには制作スタッフの「水着や裸で視聴者に安っぽいサービスなどしなくても、我々は作品丸ごと全部でサービスしてる」という自負が感じられる。まさに徹頭徹尾、アニメ制作に全てを賭けた高校生たちの群像劇なのである。
ところで、アニメ『映像研』はこの1期で終わりだが、春期には実写ドラマと映画が公開される。こちらは『賭けグルイ』の実写ドラマと映画で高い評価を得た英(はなぶさ)勉が監督を務める。果たして実写版はアニメ版を越えられるのか?
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