アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』のことは、放送が終了した後、そのアニメについて書かれた新聞記事を見るまで全く知らなかった。しかし今ならハッキリ言える。
『まど☆マギ』は凄い本当にとんでもなく凄いアニメだ、と。
別にヲタじゃないけどアニメは好きで、深夜アニメも週何本かは視ている。アニメ雑誌も時々立ち読みして情報収集したりもしてるけど、『まど☆マギ』については全くのノーマークだった。
だって、やたらカワイさを強調したキャラのデザインと、「いつもパッとしなかった少女が、ある日から魔法少女に変身する力を得て、悪い魔女と戦う」なんてしょうもな~いストーリーじゃ、ただの甘ったるい萌え系アニメにしか見えないから。実際、一度OPを見たらわかるが、あれはどう見ても「気の弱い少女が魔法少女に変身して、ドジを重ねながらも仲間たちに助けられて、少しずつ人として成長していく」みたいな話なんだろうな、としか思えない。
だから俺がそれを視なかったもの当然だし、もし仮に何かの手違いでそれを視てしまったとしても、多分、第2話までで視るのをやめていただろう。
しかし騙されるな。絵に描いたような(って、アニメだけど)萌え系キャラも、「ドジっ娘魔法少女物語」みたいなOPも、ありきたりなストーリー展開も、全ては『まど☆マギ』という物語の実体をカムフラージュするための仕掛けだ。そして『まど☆マギ』の本当の物語が動き出すのは第3話の終わりからであり、その時、視聴者は自分が視ているこの『まど☆マギ』が、甘ったるい萌え系アニメなんかとは全く違う「何か」であることに気づくのだ。
放送終了後、『まど☆マギ』を取り上げた朝日新聞の記事の中で、ストーリーを担当した虚淵玄(うろぶち げん)は、この『まど☆マギ』という物語の背景について
目を向けたのは、従来の『魔法少女』もので不都合とされ、見過ごされていた面です。異能の力を手に入れ、世の中から逸脱した存在になれば、矛盾や対価が生じると思っていました。
と語っている。
『まど☆マギ』は第3話の終わりから物語のトーンが大きく変わり、更にもう1人の人物の登場によってそれが深化していく。それは視る者の1人ひとりが自らの価値観を問われることでもある。
上の記事の中で虚淵玄は9・11について言及しながら、
例えば、アルカイダは、自分たちの正義のためにツインタワーをへし折りました。誰かの正義は、誰かにとっての悪であり、善意、優しさ、希望が人を幸せにするとは限りません。
(中略)
呪いが呪いを呼ぶというか、憎しみは連鎖する。幸せ、栄光、勝利といったポジティブな言葉は、それと対置されているものをゴミ箱に放り込んだうえで言われます。そこから悪臭が発生し、うじがわいても、見ないふりをして世の中を明るく照らそうとします。
と述べているが、9・11によって露わになった世界の本質を、ここまで核心を突いて語った言葉を私は他に知らない。そう、『まど☆マギ』は紛れもなく9・11後の世界状況が生み出した物語なのである。
だが、それだけでは『まど☆マギ』という作品のまだ半分しか語ったことにならない。その残りの半分とは第10話以降の物語であり、3・11である。
『まど☆マギ』の第2の衝撃は、第10話によって初めて明らかになる『まど☆マギ』の物語構造である。そして、その第10話によって視聴者は、OPで歌われている歌詞の本当に意味を知ることになる(ちなみに、そのOP曲は女子中学生ユニットClariSの歌う「コネクト」だ)。
こういう仕掛けを見たのは『電脳コイル』以来だろうか。『電脳コイル』も最終回を見て初めて、ED曲「空の欠片(かけら)」が何を歌っていたのかがが分かる、という仕掛けがなされていた。
さて、『まど☆マギ』は放送されていた期の途中に3・11が起こり放送は中断。後日、残りの回がまとめて放送される、という非常に特異な経緯を辿ったらしい。そのこと自体はもちろん、ただの偶然なのだが、第11、12話を視ると、まるで3・11後の日本(そして世界)に向けてのメッセージのように見えてしまうのはなぜだろう。
をちなみに上の記事の中で、記者からの「でも、人は何かを望まずには生きられないのでは?」という質問を受けての虚淵玄の答は
アルカイダの話に戻れば、世の中を正しく導こうとする、その思いは間違ってない。主人公まどかは最後にある決断をしますが、それは、魔法少女たちが祈ったこと、それ自体を否定したくはなかったからです。」
だった。
以前もこのブログで「優れたアーティストは、また優れた予言者である」といったことを書いたことがあるが、『まど☆マギ』もまた、そんな優れたアーティストたちの手によって生み出された作品であったのかもしれない。9・11から3・11を経て、その先へ──『まど☆マギ』はこの10年の軌跡を辿り、更にその先にあるものを予見させる、文字通りvisionaryな作品なのだ。
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