オットー・シャーマー(Otto Scharmer)が提唱するTheory U=「U理論」について、神田昌典さんのCDセミナーとシャーマーの著書『Theory U: Leading from the Future as It Emerges』を元に、私個人が理解する範囲でまとめる、という企画?の第2部。
なお、以下は第1部の続きとなるので、第1部を未読の方は、まずそちらからどうぞ。
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第1部の中で医者と患者の関係性を例に、そこにはレベル1~4の4つの階層があることを述べた。シャーマーはこの意識階層をfield structures of attentionと呼び、
The field structures of attention concerns the relationship between observer and observed. It concerns the quality of how we attend to the world. That quality differs depending on the organizational boundary of the observer and the observed.
と述べている。
そのfield structures of attentionを更に詳しく述べると、
レベル1:自分の習慣的な見方、考え方に基づいて感じ取るレベル。ここでは視点は常に「自分」(もっと正確に言えば、過去の自分の経験)にあることから、シャーマーはこのレベルの意識をI-in-meと名づけた。
レベル2:感覚や心をオープンにして感じ取るレベル。ここで視点が「過去の自分」から「目の前の事象」に移る。しかし、事象そのものに基づくことから、シャーマーはこのレベルの意識をI-in-itと名づけた。
レベル3:心を広く開いて内側にチューニングし感じ取るレベル。ここで視点が「目の前の事象」から、その事象の背景にある「あなた」に移る。そのため、シャーマーはこのレベルの意識をI-in-youと名づけた。
レベル4:自分という存在の根源あるいは根底から理解するレベル。ここで視点が表層的な「私」や「あなた」から、「今ここに『私』や『あなた』が存在する意味」へと移る。それをシャーマーはI-in-nowと名づけた。
それでは、このレベル1~4それぞれの階層で傾聴(listening)がどのように行われるかを示そう。
レベル1→「あぁ、それはもう知ってるよ」という、過去の判断に基づく、downloading的な傾聴。
レベル2→「おぉ、それを見てみろ!」という、事象にフォーカスした、事実に基づく(factual)傾聴。
レベル3→「はい、あなたがどう感じているかわかります」という、より深いレベルでの共感的(empathic)傾聴。
レベル4→「自分が体験したことは言葉では言い表せないけれど、自分より大きい何かとつながった」という、今いる場(field)を超えて出現する、より深い世界へとのつながりに向かうもので、シャーマーはそれを生産的(generaive)傾聴、あるいは出現する未来の場(emerging field of future)からの傾聴と呼ぶ。このレベルの傾聴には、心と意志をオープンにして、出現してほしい起こり得る最高の未来とつながる能力が求められる。
そしてシャーマーは次のように言う。
The same activities can result in radically different out-comes depending on the structure of attention from whitch a particular activity is performed.
つまり重要なのは、何を行うかではなく、どの階層から行うかである、というのがシャーマーの考えである。この言説に従うと、自分の立つfield structure of attentionを変えるだけで、同じことをやっていても全く違う結果が得られることになる。
このレベル1~4それぞれが、第1部で紹介したUの字を描くように進む思考プロセスの中の、左腕からボトムに至るdownloading, seeing, sensing, presensingに対応する。では、そういう方向に思考プロセスを進めていくために必要なものとは何か?
downloadingからseeingへのシフトに必要なのがsuspendingである。つまり、過去からのダウンロードを一時停止(suspend)しないと、今ある問題そのものと向き合う(see)ことができない。
seeingからsensingへのシフトに必要なのがdeep diveである。ここでは問題の表面的な様相ではなく、その問題を作り出している要因へと肉迫(deep dive)しなければならない。
そしてsensingからpresensingへとシフトするために必要なのが、手放す(letting go)ということなのである。ダウンロードしたものの中から本質的でないものを全て捨て去ることによってしか、過去の視点から問題を眺めることから決別し、出現する未来から問題を眺めるという新しい視点を手にすることはできない。当然それは一時的に非常に大きな混乱や葛藤が生じる、非常に怖いプロセスである。しかし、そこを超えていかなければ「次」に到達することはできない。
ついでにpresensing以降のプロセスについても、次の段階へとシフトするのに必要なものを述べると、
presensingからcrystalizingへのシフトに必要なのが、受け入れること(letting come)である。これが前のletting goと対になっていることは容易に理解されるだろう。手放すことは恐ろしいが、受け入れることもまた大きな恐れを伴う。しかし、それを経なければcrystalizingの段階には入れない。crystalizingとは、新たに手にしたものを文字通り結晶化する(crystalize)プロセスなのである。
crystalizingからprototypingへのシフトに必要なのが、結晶化したものを具体的に実行に移すこと(enacting)である。
そして、それを形あるものにする(embodying)ことによって、prototypingから最後のperformingへのシフトが完了する。
ここまでのことをまとめると、
・現在さまざまな分野で、ほとんどのオペレーションはレベル1,2で行われている。しかし、本当に必要とされているのはレベル3,4のオペレーションであり、実際に行われていることと、本当に望んでいることとの間には、大きな解離が生じている。
・それを変えるために必要なのは、今までのやり方を変えるのではなく、自分の依拠するfield structureを変えることである。
・そうしたレベル、あるいはfield structureは、Uの字の形を取って進む思考プロセスに対応づけることができる。そして、思考プロセスがある段階から次の段階にシフトするためには、それぞれの段階ごとに必要なことがある。
・レベル3,4のオペレーションを実現するために必要なことは、deep diveとletting goである。このdeep diveとletting goを経ることで、過去とつながっていた意識が、出現する未来につながる意識へと変わる。
そして、レベル3からレベル4へのシフトによって起こる変化について、『Theory U』にはこのように記述されている。
When shifting from Field3 to Field4 coordination, the mechanism changes from mutual adjustment through networked relationship to seeing from an emerging whole. This fourth type of coordination is called "innovation ecosystem". In order to an emerging field of possibility, an organization needs to go beyond itself -- to systemically tune in to the relevant emerging contexts, whitch can be identified only in the collective context of a larger ecosystem.
(※ここで言うecosystemとは、「環境を破壊しない仕組み」という意味ではなく、「全体が持続可能で調和を保つような、全てのステークホルダー(利害関係者)がニュートラルに調和を保ち続けられるような仕組み」を表しているらしい。)
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一応、今の時点で私が理解しているU理論の姿とは、こういうものである。『Theory U』では、こうした考え方を理論的に解説するだけでなく、そうした理論を現実世界で実践するための具体的なノウハウも豊富に紹介しているらしいが、まだその部分は全く手を付けられていないので、ここでは書けない。
これからまたCDを聴き『Theory U』を読んで新たな気づきがあったら、またこの続きを書きたい。
それから、『Theory U』は神田さんが翻訳したいと版権取得に動いたようだが、版権はその時には日本のどこかの出版社が取得していたそうなので、遠からず日本語版が出るだろう。原書は全530ページ(うち本文は460ページ)と、かなりのボリュームがあるが、キーとなる言葉の意味を理解していれば、テキストはそれほど難しいものではない。日本語版を待つのもいいが、直接原書を読んでしまうのも十分アリだと思う。
(※神田さんは「日本語版は1000ページくらいになるのではないか」と言っているが、本当だろうか? 本の体裁にもよるが、せいぜい600ページくらいではないかというのが私の予想。)
なお、以下は第1部の続きとなるので、第1部を未読の方は、まずそちらからどうぞ。
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第1部の中で医者と患者の関係性を例に、そこにはレベル1~4の4つの階層があることを述べた。シャーマーはこの意識階層をfield structures of attentionと呼び、
The field structures of attention concerns the relationship between observer and observed. It concerns the quality of how we attend to the world. That quality differs depending on the organizational boundary of the observer and the observed.
と述べている。
そのfield structures of attentionを更に詳しく述べると、
レベル1:自分の習慣的な見方、考え方に基づいて感じ取るレベル。ここでは視点は常に「自分」(もっと正確に言えば、過去の自分の経験)にあることから、シャーマーはこのレベルの意識をI-in-meと名づけた。
レベル2:感覚や心をオープンにして感じ取るレベル。ここで視点が「過去の自分」から「目の前の事象」に移る。しかし、事象そのものに基づくことから、シャーマーはこのレベルの意識をI-in-itと名づけた。
レベル3:心を広く開いて内側にチューニングし感じ取るレベル。ここで視点が「目の前の事象」から、その事象の背景にある「あなた」に移る。そのため、シャーマーはこのレベルの意識をI-in-youと名づけた。
レベル4:自分という存在の根源あるいは根底から理解するレベル。ここで視点が表層的な「私」や「あなた」から、「今ここに『私』や『あなた』が存在する意味」へと移る。それをシャーマーはI-in-nowと名づけた。
それでは、このレベル1~4それぞれの階層で傾聴(listening)がどのように行われるかを示そう。
レベル1→「あぁ、それはもう知ってるよ」という、過去の判断に基づく、downloading的な傾聴。
レベル2→「おぉ、それを見てみろ!」という、事象にフォーカスした、事実に基づく(factual)傾聴。
レベル3→「はい、あなたがどう感じているかわかります」という、より深いレベルでの共感的(empathic)傾聴。
レベル4→「自分が体験したことは言葉では言い表せないけれど、自分より大きい何かとつながった」という、今いる場(field)を超えて出現する、より深い世界へとのつながりに向かうもので、シャーマーはそれを生産的(generaive)傾聴、あるいは出現する未来の場(emerging field of future)からの傾聴と呼ぶ。このレベルの傾聴には、心と意志をオープンにして、出現してほしい起こり得る最高の未来とつながる能力が求められる。
そしてシャーマーは次のように言う。
The same activities can result in radically different out-comes depending on the structure of attention from whitch a particular activity is performed.
つまり重要なのは、何を行うかではなく、どの階層から行うかである、というのがシャーマーの考えである。この言説に従うと、自分の立つfield structure of attentionを変えるだけで、同じことをやっていても全く違う結果が得られることになる。
このレベル1~4それぞれが、第1部で紹介したUの字を描くように進む思考プロセスの中の、左腕からボトムに至るdownloading, seeing, sensing, presensingに対応する。では、そういう方向に思考プロセスを進めていくために必要なものとは何か?
downloadingからseeingへのシフトに必要なのがsuspendingである。つまり、過去からのダウンロードを一時停止(suspend)しないと、今ある問題そのものと向き合う(see)ことができない。
seeingからsensingへのシフトに必要なのがdeep diveである。ここでは問題の表面的な様相ではなく、その問題を作り出している要因へと肉迫(deep dive)しなければならない。
そしてsensingからpresensingへとシフトするために必要なのが、手放す(letting go)ということなのである。ダウンロードしたものの中から本質的でないものを全て捨て去ることによってしか、過去の視点から問題を眺めることから決別し、出現する未来から問題を眺めるという新しい視点を手にすることはできない。当然それは一時的に非常に大きな混乱や葛藤が生じる、非常に怖いプロセスである。しかし、そこを超えていかなければ「次」に到達することはできない。
ついでにpresensing以降のプロセスについても、次の段階へとシフトするのに必要なものを述べると、
presensingからcrystalizingへのシフトに必要なのが、受け入れること(letting come)である。これが前のletting goと対になっていることは容易に理解されるだろう。手放すことは恐ろしいが、受け入れることもまた大きな恐れを伴う。しかし、それを経なければcrystalizingの段階には入れない。crystalizingとは、新たに手にしたものを文字通り結晶化する(crystalize)プロセスなのである。
crystalizingからprototypingへのシフトに必要なのが、結晶化したものを具体的に実行に移すこと(enacting)である。
そして、それを形あるものにする(embodying)ことによって、prototypingから最後のperformingへのシフトが完了する。
ここまでのことをまとめると、
・現在さまざまな分野で、ほとんどのオペレーションはレベル1,2で行われている。しかし、本当に必要とされているのはレベル3,4のオペレーションであり、実際に行われていることと、本当に望んでいることとの間には、大きな解離が生じている。
・それを変えるために必要なのは、今までのやり方を変えるのではなく、自分の依拠するfield structureを変えることである。
・そうしたレベル、あるいはfield structureは、Uの字の形を取って進む思考プロセスに対応づけることができる。そして、思考プロセスがある段階から次の段階にシフトするためには、それぞれの段階ごとに必要なことがある。
・レベル3,4のオペレーションを実現するために必要なことは、deep diveとletting goである。このdeep diveとletting goを経ることで、過去とつながっていた意識が、出現する未来につながる意識へと変わる。
そして、レベル3からレベル4へのシフトによって起こる変化について、『Theory U』にはこのように記述されている。
When shifting from Field3 to Field4 coordination, the mechanism changes from mutual adjustment through networked relationship to seeing from an emerging whole. This fourth type of coordination is called "innovation ecosystem". In order to an emerging field of possibility, an organization needs to go beyond itself -- to systemically tune in to the relevant emerging contexts, whitch can be identified only in the collective context of a larger ecosystem.
(※ここで言うecosystemとは、「環境を破壊しない仕組み」という意味ではなく、「全体が持続可能で調和を保つような、全てのステークホルダー(利害関係者)がニュートラルに調和を保ち続けられるような仕組み」を表しているらしい。)
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一応、今の時点で私が理解しているU理論の姿とは、こういうものである。『Theory U』では、こうした考え方を理論的に解説するだけでなく、そうした理論を現実世界で実践するための具体的なノウハウも豊富に紹介しているらしいが、まだその部分は全く手を付けられていないので、ここでは書けない。
これからまたCDを聴き『Theory U』を読んで新たな気づきがあったら、またこの続きを書きたい。
それから、『Theory U』は神田さんが翻訳したいと版権取得に動いたようだが、版権はその時には日本のどこかの出版社が取得していたそうなので、遠からず日本語版が出るだろう。原書は全530ページ(うち本文は460ページ)と、かなりのボリュームがあるが、キーとなる言葉の意味を理解していれば、テキストはそれほど難しいものではない。日本語版を待つのもいいが、直接原書を読んでしまうのも十分アリだと思う。
(※神田さんは「日本語版は1000ページくらいになるのではないか」と言っているが、本当だろうか? 本の体裁にもよるが、せいぜい600ページくらいではないかというのが私の予想。)
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