『明治文学小説大全』 (全50篇)
4月14日
明治31年(1898年)
『小説不如帰』 徳冨蘆花
初読。長篇。
愛する二人が引き裂かれ、病いで亡くなる悲劇。メロドラマのはしりとも云うべきか。ベストセラーとなったのもむべなるかな。
「ほととぎす」だとばかり思っていたが、のちに徳冨蘆花自ら「ふじょき」と書いているのを知った。
擬古文なのに現代仮名遣なのが、名文であるだけに、違和感はなはだしい。
障子に映る猫の影の描写が見事。
片岡浪子と川島武男の結婚。
浪子は赤坂氷川なる片岡子爵陸軍中将の娘。武男は番町なる川島家の嫡男、海軍少尉。
浪子の実母は既に亡くなり、継母はイギリス留学をしたほどの才女ながら浪子には辛く当たっていた。
嫁ぎ先では、川島未亡人による姑の嫁いびりにて浪子は体調を崩し、とうとう結核を発病、逗子で転地療養をする。
武男が軍務で乗船している間に、川島未亡人は病身の浪子を離縁してしまうのだった。
時あたかも日清戦争勃発。作中では征清戦争と記されているのが面白い。当時はそのように云っていたのだろうか。
黄海海戦。名文。武男負傷し、佐世保に入院。入院中、匿名で着易き衣類や武男の好物などが送られてきたが、筆跡は浪子のものであった。
退院後またすぐに服役、清との戦いに勝利したあと、旅順港で停泊した折に、たまたま清兵に襲撃されていた人を助けたところがそれが波子の父、片岡陸軍中将であった。
武男は帰国後すぐに台湾に向かうために汽車で呉軍港へ。浪子は具合がやや好転し父と京都、奈良を周遊。
山科駅で大津に向かう汽車に乗り込み発車を待つ間に、車窓から外を眺めていたら、向かいの汽車の車窓に武男の姿が。すれ違う浪子と武男。
ふたたび武男が帰国した時には、既に浪子は亡くなっていた。
ラストシーンは浪子の墓前で再会する武男と片岡中将。互いに手を握りつつ涙を浮かべる二人であった。
4月19日
明治33年(1900年)
『高野聖』 泉鏡花
中学の文学史では暗記必須の作者、作品。
でも恥ずかしながら初読。
擬古文、現代仮名遣かつ略字体。
旅僧が自らの不思議な体験を語る、幻想的な短篇(中篇?)小説。
妖艶な女の住家での経験もさることながら、そこに行き着く途中での蛭林の描写が写実的で気持ち悪い。
写実と幻想とが渾然一体となった名作。何度も映像化されたのもむべなるかな。
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