仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

『 棄霊島 上・下 』 内田康夫

2009-01-04 12:05:20 | 讀書録(ミステリ)
『 棄霊島 上・下 』 内田康夫

お薦め度 : ☆☆☆☆
2009年1月4日讀了


久しぶりに内田康夫を讀んだ。

本書は「淺見光彦シリーズ」の100作目。
推理小説として讀むと、謎解きが主人公・淺見光彦の「勘」に頼り過ぎてゐて肩透かしを喰ふ。
まあ、これは内田康夫の宿命?なので、目くぢらを立ててはいけない。
それでもなほ星4つの評價にしたのは、日本の近現代史の重たいテーマを見事に料理してゐるから。

「大東亞戰爭」さなかの朝鮮半島からの徴用や敗戰後の日本の懺悔外交、北朝鮮による日本人拉致事件・・・
さらには所謂「靖國問題」と日本人の宗教觀にも言及するなど、日本と近隣諸國との關係について考へさせられる。
ただし、本書では、戰時中の朝鮮人徴用と現在の北朝鮮による日本人拉致事件とを同列に論じてゐるかのやうに見られる箇所があるのは殘念だ。

戰爭當時は朝鮮半島も「大日本帝國」の一部であり、その住人はまぎれもなく「大日本帝國」の國民だつたといふことを忘れてはいけない。
戰時中に徴用された對象は、當時の「大日本帝國」の國民すべてであり、朝鮮半島住民のみならず、台灣および日本列島住民も例外ではなかつた。
つまり、朝鮮半島住人の徴用は戰時下における合法行爲であり、北朝鮮による日本人拉致事件のやうに他國の主權を無視した非合法行爲ではない。
倫理的な觀點はともかく、法律(國際法・國内法ともに)の觀點から云へば、兩者はまつたく違ふ次元の事象だ。
前者をもつて後者の感情的な理由とする北朝鮮の主張および日本の一部のマスコミの論調はまつたくもつて論理的ではない。

このやうな多少の瑕疵はあるにせよ、本書は私たち戰爭を知らない日本人に當時のことを考へさせる。
それも、いはゆる戰後インテリ層の「有識者」や朝日新聞的・日教組的「自虐史觀」とは違つて、普通の人が普通のスタンスで眞面目に考へればさうなるだらう、といふ姿勢で問題を見据ゑてゐる。

登場人物がやや多いため、相關圖を頭に描きながら讀む面倒さはあるが、それだけに讀みごたへがある。
單純な「惡役」が登場しないのも良い。
結末については、例によつて淺見光彦のやさしさが見られる。
讀み了へて、しんみりとした心境になるのは、本書の良いところだと思ふ。



棄霊島 上 (ノン・ノベル 855)
内田康夫
祥伝社

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棄霊島 下 (ノン・ノベル (856))
内田康夫
祥伝社

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