【1981年】(2囘生)
ミヤシタの下宿
塾
家庭教師
サカイさんより¥30,000(7・9月分)
土曜日。
ミヤシタは高校の同級生で、現役で入學したのでこの年3囘生。
私と同じく「地の果て」岩倉に住んでゐたので、時々私の部屋に遊びに來た。
この日は私が彼のアパートに行つた。
目的はわからない。
枚方の塾で授業。
それが終つてから、サカイくん(兄)の個人授業。
彼は中學3年生で半年後の受驗のために苦手な英語を克服しなくてはならない。
私にとつても大役だつた。
で、この日、サカイさんから授業料を頂戴した。
月に¥15,000。
なんとしても、志望高(特進クラス)に入學できるだけの英語力をつけてやらなくては。
【1982年】(3囘生)
富雄 13:00集合
日曜日。
富雄には、枚方の塾の本部がある。
その本部に13:00集合。
なんだらう、採點の手傳ひにでも行つたのかな?
【1983年】(4囘生)
盜難事件の搜査
24:30 モギの下宿へ。月例テスト受け取り。
月曜日。
前日、部屋の机の抽斗に入れておいた現金約10萬を盜まれてしまひ、近くの交番に被害屆を出した。
夜のことだつたので、搜査は翌日、つまり、この日になつた。
制服の巡査と鑑識係員が數名來て、机やドアを中心に指紋採取。
刑事ドラマなどで、ポンポンと粉をはたく、あれだ。
TVでは白い粉に見えるが、實際は鉛筆の芯を削つたやうな銀鼠色の粉。
私を始めとしてアパートの仲間たちも、手の指紋、掌紋を取られた。
私の部屋の中から採取された指紋から、私や仲間の指紋を除いた指紋を搜すといふことらしい。
警察ははつきり云はなかつたが、内部の犯行も視野に入れてゐたのだらう。
この時、制服警官の一人が私の机の上の本を見ながら云つた。
「仙丈さんは、文學部ださうですが、部屋に本がないのですね」
放つといてくれ、と思ひつつ、悔しいので説明した。
「ああ、本は向ひの書齋部屋のはうに置いてゐるんです」
參考までに拜見したいといふので、見せてやつた。
「仙丈さんは、三島先生をかなり讀んでをられるのですねえ」
その部屋には7段ラックが3つならんでゐて、1段につき前後に2列、その状態で3段は三島の本が占めてゐた。
確かに「かなり讀んで」ゐると云つてよい。
後日、私服の刑事がやつて來た。
「犯人、見つかりましたか?」と訊くと「いや、私は別の係でして」
「仙丈さんは、三島先生の研究をされてゐるさうですが、大學で研究會とかに參加されてゐますか?」
「近現代文學研究會を主催してますが、それが何か?」
「その研究會はどんなことをされてゐるのですか」
をいをい、そんなことあんたに關係あるのかよ。
「まあ、簡單に云へば讀書會です。全員が同じ作品を讀んで、發表者が自分の考へを發表して全員で討議するんですが」
「なるほど。京都産業大學の「三島研」とは交流がありますか?」
「は?」
ここに至つて、やうやく事情が飮み込めた。
彼はいはゆる「公安」なのだ。
「公安」といへば「左翼」の取締りのイメージが強いが、一應「右翼」も視野に入れてゐるらしい。
京都産業大學の「三島研」といへば、京都の「右翼」學生の集まりとして有名だ。
岩倉には京都産業大學の學生が多い。
そんな土地柄で三島を「かなり讀んで」ゐる學生がゐるといふ報告を受けて、念のため調べに來たといつたところだらう。
私の腦天氣な顏を見て、こいつは人畜無害だと判斷したのか、公安氏は短時間で立ち去つた。
去り際に、「産大の三島研とは交流されないことをご忠告しときます」。
大丈夫、そんな怖い人達とお友達にはなりたくないし。
でも、産大應援團の團員とは付き合ひがあるけどね。
ミヤシタの下宿
塾
家庭教師
サカイさんより¥30,000(7・9月分)
土曜日。
ミヤシタは高校の同級生で、現役で入學したのでこの年3囘生。
私と同じく「地の果て」岩倉に住んでゐたので、時々私の部屋に遊びに來た。
この日は私が彼のアパートに行つた。
目的はわからない。
枚方の塾で授業。
それが終つてから、サカイくん(兄)の個人授業。
彼は中學3年生で半年後の受驗のために苦手な英語を克服しなくてはならない。
私にとつても大役だつた。
で、この日、サカイさんから授業料を頂戴した。
月に¥15,000。
なんとしても、志望高(特進クラス)に入學できるだけの英語力をつけてやらなくては。
【1982年】(3囘生)
富雄 13:00集合
日曜日。
富雄には、枚方の塾の本部がある。
その本部に13:00集合。
なんだらう、採點の手傳ひにでも行つたのかな?
【1983年】(4囘生)
盜難事件の搜査
24:30 モギの下宿へ。月例テスト受け取り。
月曜日。
前日、部屋の机の抽斗に入れておいた現金約10萬を盜まれてしまひ、近くの交番に被害屆を出した。
夜のことだつたので、搜査は翌日、つまり、この日になつた。
制服の巡査と鑑識係員が數名來て、机やドアを中心に指紋採取。
刑事ドラマなどで、ポンポンと粉をはたく、あれだ。
TVでは白い粉に見えるが、實際は鉛筆の芯を削つたやうな銀鼠色の粉。
私を始めとしてアパートの仲間たちも、手の指紋、掌紋を取られた。
私の部屋の中から採取された指紋から、私や仲間の指紋を除いた指紋を搜すといふことらしい。
警察ははつきり云はなかつたが、内部の犯行も視野に入れてゐたのだらう。
この時、制服警官の一人が私の机の上の本を見ながら云つた。
「仙丈さんは、文學部ださうですが、部屋に本がないのですね」
放つといてくれ、と思ひつつ、悔しいので説明した。
「ああ、本は向ひの書齋部屋のはうに置いてゐるんです」
參考までに拜見したいといふので、見せてやつた。
「仙丈さんは、三島先生をかなり讀んでをられるのですねえ」
その部屋には7段ラックが3つならんでゐて、1段につき前後に2列、その状態で3段は三島の本が占めてゐた。
確かに「かなり讀んで」ゐると云つてよい。
後日、私服の刑事がやつて來た。
「犯人、見つかりましたか?」と訊くと「いや、私は別の係でして」
「仙丈さんは、三島先生の研究をされてゐるさうですが、大學で研究會とかに參加されてゐますか?」
「近現代文學研究會を主催してますが、それが何か?」
「その研究會はどんなことをされてゐるのですか」
をいをい、そんなことあんたに關係あるのかよ。
「まあ、簡單に云へば讀書會です。全員が同じ作品を讀んで、發表者が自分の考へを發表して全員で討議するんですが」
「なるほど。京都産業大學の「三島研」とは交流がありますか?」
「は?」
ここに至つて、やうやく事情が飮み込めた。
彼はいはゆる「公安」なのだ。
「公安」といへば「左翼」の取締りのイメージが強いが、一應「右翼」も視野に入れてゐるらしい。
京都産業大學の「三島研」といへば、京都の「右翼」學生の集まりとして有名だ。
岩倉には京都産業大學の學生が多い。
そんな土地柄で三島を「かなり讀んで」ゐる學生がゐるといふ報告を受けて、念のため調べに來たといつたところだらう。
私の腦天氣な顏を見て、こいつは人畜無害だと判斷したのか、公安氏は短時間で立ち去つた。
去り際に、「産大の三島研とは交流されないことをご忠告しときます」。
大丈夫、そんな怖い人達とお友達にはなりたくないし。
でも、産大應援團の團員とは付き合ひがあるけどね。
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