仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

「蜻蛉始末」 北森鴻

2006-05-17 21:28:50 | 讀書録(一般)
「蜻蛉始末」 北森鴻

お薦め度:☆☆☆☆
2006年5月16日読了


北森鴻がかういふ歴史小説を書いてゐるとは知らなかつた。

主人公は藤田觀光などの創始者・藤田傳三郎と、その幼馴染の「とんぼ」こと宇三郎。
宇三郎は、傳三郎の家の使用人の三男で、
「まるで剥き出したやうな大きな眼にいつも愚鈍な光を宿してゐる」ために「とんぼ」と渾名されてゐる。
傳三郎に馬鹿にされ、毆られたり蹴られたりしながらも、いつもひつそりと傳三郎に寄り添ひ、傳三郎の役に立たうと陰で頑張つてゐる。

長州出身で、高杉晉作の創設した奇兵隊の一員であつた二人は、幕末から明治維新の激動の時代に飜弄されつつも、
ともに人生を歩み、別れ、再會し、擦れ違ひ、對決し、決別する。

かういふ人がゐたといふことを初めて知つた。
明治11年の「藤田組贋札事件」からこの物語は始まるが、かういふ事件があつたことも初めて知つた。
この作品を讀んで、幕末から明治への移り變りには、大きな變革があつたのだといふことを改めて感じた。
明治の元勳といはれる伊藤博文、山形有朋、井上馨なども登場するが、國を動かす熱意といつたものを感じさせられた。

主人公は二人と書いたが、嚴密には宇三郎である。
彼の傳三郎への友情といふか愛情といふか、その思ひにはこころ打たれるものがある。
ほんのちよつとした擦れ違ひから、二人が對決してしまふことになるのは、哀しいことだ。
宇三郎の最期のひとこと、「六さん!」には感動した。

ミステリーではないが、北森鴻の作品の中では獨自の輝きを持つた、好感の持てる作品である。


2006年5月16日讀了


蜻蛉始末

文藝春秋

このアイテムの詳細を見る



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 阪神3-2日ハム/ 延長12... | トップ | 阪神1-4日ハム/ 古巣に勝... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿