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こじらせ女子ですが、何か?

心臓外科医との婚約を解消して以後、恋愛に臆病になっていた理穂。そんな彼女の前に今度は耳鼻科医の先生が現れて!?

レディ・ダイアナ。-【6】-

2022年03月22日 | レディ・ダイアナ。

 

 ええと、今回は前文に何書こうかなって思ったんですけど……実は今、『UPLOAD~デジタルなあの世へようこそ~』という海ドラを見てまして

 

 例によって(?)、これもたぶん「SFのお勉強しよう」という意識がなかったとしたら、まずもって見てなかったんじゃないかな~と思ったり(^^;)

 

 

 >>未来では人は死後、豪華な仮想現実へ意識をアップロードすることが可能になっていた。パーティー好きな男、ネイサンはアップロード先の仮想現実のホテルで、現実世界にいる顧客サービス係のノラと出会う。ノラの助けで友情や愛、人生の意味を知っていくうちに、2人は親しくなっていく。

 

 

 というのが、密林さんにあるあらすじ。なのですが、正直、1~2話を見た感じだと、「あーハイハイ☆」みたいな、そんな感じだったかもしれません。今、1stの7話くらいまで来たんですけど、ようするにバーチャル・リアリティの世界へ人が意識を飛ばす系のお話って、今結構あると思うので……それが死後の世界であってもなんの不思議もないってことですよね(^^;)

 

 ただ、完全に死んで意識が失われてからでは遅いため、ネイサンは交通事故に遭って助からない(かもしれない)となった時点で――ガールフレンドのイングリッドの勧めで、意識をその前にデジタルなあの世(天国?)へアップロードすることに同意する。

 

 で、ストーリーのあらすじ。のところにSFコメディ☆とあるとおり、確かに一応コメディであるとはいえ……その、【2】のところで文章を紹介した『意識はいつ生まれるのか』によりますと、この設定の元になるような実験っていうのは、実際にあるんじゃないかなと思うんですよね(^^;)

 

 つまり、人間の脳に約1千億個あると言われるニューロンと、約1兆あると言われるシナプス……これを人工で出来たニューロンやシナプスにデータとしてコピー出来れば、それは人類が<永遠の生命>を手に入れる瞬間ではないだろうか、という。

 

 ただ、この実験、ひとつだけ問題がありまして、「最初に誰がこの実験の被験体となるか」ということなんですよね。もしそれが人間の肝臓や腎臓、膵臓といった他の臓器ということなら――それが仮にかなりのところ危険を伴うものであれ、一か八か、もしかしたら病気が治るかもしれないと思って治験に参加するっていう選択は当然ありえますよね。でも、これが人間の脳っていうことになると……「自分が本当にそのまま自分という意識のままでいられるかどうか」、その危険性については誰にもわからないわけです。

 

 なので、あくまでSFコメディ☆として考えた場合、そんなに難しく考える必要ないとはいえ……自分的にちょっと(いや、かなり)気になったというか。この『アップロード』の最初の被験者は誰だったのかとか、本当に最初からこの人のアップロード事業はうまくいったのか、それとも何回か、あるいは何回となく失敗してからとうとううまくいったのかどうか。またその場合、失敗した最初の何人かの人々の意識は一体どうなったのか……ドラマの中でそのあたりのことまで語られるのだとしたら、絶対最後まで見たい!と思い、現在視聴中なわけです(^^;)

 

 それで、第3話の最初のほうで、人の意識をデータとしてアップロードできるのであれば、一度このアップロードした意識を、今度は地上のクローン人間にダウンロードできるはず――という実験をやってて、それ、失敗してクローンの頭がドバッ!と吹っ飛んじゃうんですよ。この瞬間、1~2話見た時には「まあまあかな」と思ったわたしの感想は変わり、「とりあえず、絶対最後まで見よ!」みたいになったわけです(笑)。

 

 お話のほうは、ネイサンが運転していた自動運転の車に細工がされていたから彼は事故に遭ったのではないか……という、ミステリー要素も絡んでいて、このあたりの「彼は実は殺されたのではないか」という物語の流れのほうも気になるという、何かそんな感じかな~と思ったり(^^;)

 

 なんにしても、最後まで見終わったらまた感想書こうかなって思ってます!

 

 それではまた~!!

 

 

       レディ・ダイアナ。-【6】-

 

「ふう~ん。脳外科医ねえ」

 

 ディックはアボガドチーズバーガーに噛みつきながら言った。店内のほうは何故か60~70年代のアメリカ風だったが、このチェーン店は一店舗ごとに内装のテーマが違うので、市内の他の店舗はメキシコ風だったり、あるいはインド風だったり、日本風だったりしたものである。

 

「いいんじゃね?つか、おれたち三人の中でギルが一番出世しそうだもんな。ただ、脳下にはなんといっても怪獣がいるからなあ。あいつをウルトラマンか何かのスーパーヒーローよろしくぶち倒さなきゃならんことを思うと……おれなんかは絶対やだね。女の指導医の下で働くのが嫌ってわけじゃない。ただ、ダイアナ・ロリスの独裁政権下でビクビク怯えながらメスを振るうとか、そういう状況を想像するだにゾッとするっていう、これはそうした話さ」

 

「だよな。オレだって下っ端として病院に出入りする前まではこう思ってたぜ。医者ってのは腕がいいだけじゃなく、徳の高い人間しかそのトップには立てないものなんじゃないかって。だが、はっきり言ってそんなもんはただの理想論だ。今、泌尿器科の教授は東洋系のリュウ・チェンだろ?准教授や、チェン教授の脇を固める医師はみんな東洋系なんだぜ。本人の弁によると「たまたま偶然もっとも優秀な人材が東洋系だった」ってことになるんだろうが、それにしてもなあ。そのせいで、泌尿器科へ将来専門医として入局したら、東洋人しか出世できないと覚悟しといたほうがいいとまで今じゃ噂されてるんだぜ」

 

 シェルドンはサルサドッグにかぶりつくと、コーラをごくごく飲み干し、ゲップをひとつして言った。

 

「ま、そもそもオレは泌尿器科医になるつもりはないから、それはそれでいいんだがな」

 

「でも、チェン教授の……いや、正確には横に教授がいて、実際に執刀したのは准教授のゴロー・スズキ先生だったんだけど、前立腺ガンの手術は見事だったよ。将来、もし同じ病気になったら、チェン先生かスズキ先生のどっちかに手術してもらいたいって思ったくらい」

 

 ここで、シェルドンとディックは互いに顔を見合わせてどっと笑った。

 

「なんだ?ギルバートおまえ、女のことでは随分後ろめたいことがあるもんだから、何十年か後の将来、おちんぽこの病気にかかるだろうとすでに今から思ってんのか?」

 

「そういやさ、チェン教授のことではおれたち、最初の頃はよく笑いに笑ったよな。話し方のイントネーションがおかしいってのか、なんてのか……とにかく、あんな奴に大事な急所の手術をしてもらおうなんざ論外だとばかり、教授の話し方の真似してみたりさあ」

 

「だよなあ。『男と女の尿道の長さ、その違いとはすなわち、ペニスの長さの分の違いなのでありますっ』とか、そもそもあの先生、医学生に対しても敬語口調でしゃべったりするよな。しかも斜視だから、時々本当はどこ見てんだろう……みたいになって、急に当てられてどきんとしたりさ。ところが今じゃ、チェン先生はオレたちの間じゃ大人気だ。けど、泌尿器科医にはなりたくないという、微妙な問題が横たわっているわけだ」

 

「そうなんだよな」

 

 ギルバートはフィッシュバーガーを食べる手を止め、軽く溜息を着いた。チェン教授については、今では誰もが物真似しすぎていて、面白くもなんともない。

 

「もし脳外の指導医がチェン教授で、教授がまわりを東洋人ばかりで固めて物議を醸していたとしても、将来の出世云々気にすることなく、俺は脳外の専門医を目指したかもしれない。だけど、ロリス医師はやっぱり別だよ。あの人、俺に対してはともかく、他の医学生に対しては平等に厳しいみたいな感じだろ?俺、正直あの人のああいうところ、嫌いじゃない。でも、向こうのほうで俺に真剣に物を教える気がないとか、そういうことなら……」

 

「オレさあ、実は時々、それって逆なんじゃねえのかなって思うことあるよ」

 

 ディックはポテトにぱくつきながら言った。

 

「つまりさ、あの怪獣も結局は人の子で、モデルか俳優みたいな容貌の美青年には弱いのさ。けど、ダイアナ・ロリスともあろう者が、相手がアイドル並みの美青年だってことで、デレデレしてると思われたくないっつーのかね。それで先に釘刺したんじゃねえかって思うんだけど、どう?」

 

「大いにありうるねえ」と、シェルドン。彼もまたポテトに齧りついて言った。「それにさ、何も脳外科の医師はあの女怪獣ひとりきりってわけでもないんだし……ギルバートが将来脳外科医になりたいのであれば、その気になればきっとなんとかなるぜ。ただ、脳外科ってのはアレだよな。自分の手術の失敗によって、相手が昏睡状態から永久に目覚めなかったり、腫瘍のすぐ隣にあった正常な神経を傷つけちまったことで、腫瘍は取れたが、そのかわり半身麻痺になったとか――オレだったら、そんなことが何度か続くうち、鬱病かなんかになって首くくっちまうかもしれん」

 

「そんなこと言ってたら、どの科の外科医にもなれないだろ」

 

 いつものシェルドンの愚痴がはじまって、ギルバートは笑った。彼もポテトをいくつか口の中へ放り込む。

 

「そりゃそうなんだがなあ。オレはもう何科の医師になるにしても、医療に夢なんぞさっぱり持てんよ。一度病院の内側に入って、実はこれこれこういうことなんだ……ってことがわかってくるうちに、医者なんて生き物になるのがすっかり嫌になっちまった。覚えなきゃならんことは数限りなくたくさんあるし――いや、それはまだいいさ。そんなこた、そもそも最初から覚悟の上だったわけだからな。けど、結局のところすべては人間関係に左右されるといって過言でないわけだ。オレの言いたいこと、わかる?」

 

「まあな」と、ディック。ギルバートも深く頷いている。「大学病院ってのは、クセのある頭のおかしい奴が多いってことでもないんだろうが、オレたちの成績表の最終的な評価を下すのは指導医だからな。もちろん、インターンやレジデントからも話を聞いて、『あいつは仕込み甲斐のある奴ですよ』だの、『勤務中は真面目にやってますよ』だの、普段の実習態度も関係してくるんだろうが……だから日頃からゴマすっとこうとか、そういうことじゃなく――とにかく、誰かに目をつけられて睨まれるでもなく変な噂を流されるでもなく、医学生のうちからそこらへんをうまいことやって、複雑微妙な人間関係の中、空気を読んで世渡りしてかなくちゃならんわけだ」

 

「もちろん、インターンもレジデントも、俺たち医学生が人間として気に入るとか気に入らないじゃなくて、ちゃんと平等にものは教えてくれるよ。でも、俺たちが何かヘマやらかしたら、担当になってる医師の責任ってことになるし、俺たちもいずれインターンやらレジデントになったら……まったく同じ立場に立たされるってことだよな。そういう時、あんまり相性よくないっていうか、ちょっと微妙な感じだなって関係の先輩に指導を受けることになると――まあ、はっきり言ってストレスは倍化するよなって話」

 

「そうそう。あとは何科のなんとか先生が、某外科の看護師とつきあってて別れたあと、そんなこと知らずにつきあってたら、ある日関係がバレるとか」

 

「ああ。おれが聞いた話じゃな、先輩がつきあってた看護師を寝取ったとかうっかり不倫したとか……マジな話、そんな医療ドラマみたいなことがほんとにあるらしい。そういやおまえら、来週の土曜にある医局主催のパーティなんて行く?」

 

 ディックがそう聞くと、シェルドンは「う~ん。どうかなあ」と首を捻っている。彼はコーラを飲み終わるとビールを注文していた。毎日三コマ、計四時間の医学の講義があってのち、そのあとさらに四時間の実習が入っており……その後、帰宅してからも明日に備えて予習・復習含めた勉強もしなくてはならないのだ。近ごろシェルドンは、実習後にビールを飲んでいる時だけが「本当に生きてる」と感じられる自分が、少しばかり怖くなりつつある。

 

 つまり、そんな忙しい合間を縫って、せっかくの休日の土曜までパーティ如きのため時間を無駄にせず、ゆっくり体を休ませたいのだ。

 

「とりあえず、俺は行こうかなと思ってるんだけど……」

 

 ギルバートもまた、ビールを頼むことにした。すると、そんな彼に向かって、「えっ!?ギル、おまえマジ?」と、ディック・シェルドン双方から抗議の目を向けられる。

 

「まあ、おまえはパーティなんて行けばそこがどこでも、なんとなーく女が寄ってきていい雰囲気になったりするんだろうから、いいよな~。おれはさ、まだ医学生のうちからなんかあって睨まれたくないってのがあるから、レジデントになるまでその手の集まりに行くのは遠慮しとこうかと思ったんだけど」

 

「そうそう」と、シェルドンも同調する。「ようするに、医局における懇親会ってことらしいもんな。ほら、大学病院ってのは何分巨大組織だから、普段内科系の医師と外科系の医師ってのは仕事以外で接点なぞほとんどない。けど、いつもは滅多に顔合わさないような各科の先生たちで集まって、美味いもんでも食って仲良くお話しましょう……ってなことなんだろ?」

 

「俺はそんなパーティに出会いなんて一切求めてないよ」

 

 ギルバートはドイツビールを飲みながら、陽気に笑った。

 

「医学生でも、来たけりゃ来てもいいってことだったし……しかも、フォーシーズンズの一部を貸し切るんだろ?美味しいシャンパンとちょっとした食事でもすれば、少しは気晴らしになるかと思って」

 

「そういやさ、ギル、おまえ……あの可愛い看護学生の子とつきあってんの?」

 

 ギルバートが豪華ホテルのガーデンパーティで気晴らしがしたい――などと言うのを聞いて、シェルドンはそう訊いた。彼はいつでも可愛いとか美人と感じた女性を各科でチェックしており、コニー・レイノルズはそのリストに看護学生として入っていたからだ。

 

「もしかして、コニーのこと?」

 

 以前、偶然実習先が重なり、廊下の隅のほうで話していたのをディックもシェルドンも覚えていた。ギルバートはどう思っていたにせよ、彼女のほうでは恋する乙女の眼差しをしていたと、ふたりにはわかっていた。また、彼にはそんな瞳で見てくる女性が他に何人もいることも……。

 

「そうだよ!もしおまえがつきあってないんだったら、オレが紹介してもらいたいくらいだけど……あの子もギルバート病ってのか、ギルバート・ウイルスに冒されてるって口なんだろうから、そんなことはよしとくよ。けど、そうか。確かに思いきってそういうパーティへ行くってのもアリかもな。院内で会う時とは違って、向こうも違う目でこっちを見てくれるかもしれんし」

 

「確かにな」とディック。「院内で女を口説くにゃ、胸元の<医学生>ってネームタグがどうにも邪魔だ。だが、よく考えたらそういう手があったか……ギルバート!その週末のパーティ、おれも出席することにするよ。それで、おまえのおこぼれの女の子とでもなんかうまくやりたい」

 

「だから、俺はそういうのが目的でパーティ行くんじゃないんだって……」

 

(やれやれ)と思いつつ、ギルバートは溜息を着いた。パーティ自体はあくまで格式ばらないもので、大学病院のトップである理事たちの挨拶があるでもなければ、教授たちの誰かがためになる講話をひとつふたつしてくれるでもない。ただ、普段接触のない他の科の職員たちとの交流をはかることで――病院内での人間関係の円滑化を計ることを目的とした集まりらしい(また、この種のパーティの似たものとして、ゴルフコンペ、ボーリング大会、カラオケ大会などがある)。

 

「じゃ一体何が目的なんだよ?んなもん普通、出席しなきゃ将来の出世に関わるとか、女引っかけるといった理由でもない限り、行ったって面白くもなんともないんじゃねえの?」

 

「んー、だからさ。よくわかんないだけに、一度ちらっとだけでも雰囲気を見ときたいなと思って。たとえば、そういう場所で大酒食らってへべれけになる先生がいたりとか、普段大学病院じゃ見られない裏の顔っていうのかな。そういうのを見れるかなと思って……」

 

「腹黒っ!ギル、おまえ実はオレたちが思ってた以上の腹黒野郎だな!?」

 

 シェルドンは愉快そうに笑うと、隣のギルバートの肩をがしっと掴んだ。

 

「そういうことなら、オレも行くぜっ。いやいや、そう考えるとなんか週末のやって来るのが今から楽しみになってきたな」

 

 ――といったような次第により、この十月初旬の週末、ギルバートとディックとシェルドンは、ユトレイシア市中にあるフォーシーズンズホテルのほうへ出かけていった。車のほうはギルのフェラーリではなく、シェルドンの運転するキャデラックだった。ホテルの入口前に車を停めると、ホテルの制服を着た配車係に駐車場への移動を頼む。

 

「さてと、行ってみっぺかな」

 

 ディックは何故か田舎者風にそう言い、タキシードの襟元あたりを正している。シェルドンもギルバートもスーツを着てはいたが、お互い空気を読んで、地味目の色柄のものに落ち着いていたと言ってよい。

 

 特別招待状のようなものもないので、一階のロビー付近でたむろしている人々の顔ぶれや、あるいは彼らが奥の廊下のほうへ重厚な臙脂の絨毯を踏みしめつつ進むのを見て――彼らはなんとなくその行列についていった。このホテル内で一番広いホールへ辿り着くと、そこにはすでに三百名以上もの医師や看護師や検査技師、その他事務員といった大学病院の職員らがひしめいている。

 

 食事のほうはブュッフェ・スタイルというより、バイキング形式に近いもので、ホテルご自慢のシェフたちが腕を振るったご馳走が、これでもかとばかりたっぷり並べられ、おのおの好きなだけ皿に盛り、テーブルに座って食べる……といった形の、極めて肩肘張らないものだった。しかも、そのいくつも並んでいるテーブル自体、特に指定があるわけでもなく、親しい同士でなんとなく固まって美味しいものを食べている――何かそうした雰囲気だった。

 

「やったあ!おれ、ギルの言うとおり来てみて良かったあ。ようするにこりゃ、あれだぜ。病院職員に対する日頃の労いって意味もこめて、うまいもん食わせてくれるってな趣旨のパーティなのさ」

 

「ディックの言うとおりだ」と、シェルドン。「これならオレたち医学生でも、どっか隅っこのテーブルにでも座っときゃ全然目立たないし、なんか色々うまいもん食って適当なところでずらかろうぜ」

 

 そう言って早速、シェルドンは中華料理の並ぶ細長いテーブルのところへ行き、皿をのせたトレイ片手にトングで色々とりはじめた。ディックがまず真っ先に突進していったのはイタリア料理の並ぶテーブルで、そこで色々な種類のパスタを皿に盛っている。ギルバートは迷ったが、まずは日本料理の並ぶところへ行って、大好きな焼き鳥を一種類ずつのせ、それから彼が春巻きを皿にのせてシェルドンと同じく中華料理のあるコーナーへ向かった時のことだった。

 

「あら、そこの君。早く北京ダックとっちゃったほうがいいわよ。大抵の料理はなくなりかけた頃にまた補充されるけど……ものによってはね、一度なくなっちゃうとそれきりのものもあるから」

 

「そうなんですか。ありがとうございます」

 

 シックな黒のドレスを着た中年の女性は、「どういたしまして」と言って、皿の上に小籠包(しょうろんぽう)をのせている。そして、こちらも通りすがりの別の職員に対し、「あら、あなた。ここの小籠包の前を素通りするだなんて、どうかしてるわよ!」などと、親切に教えてあげている。そこでギルバートもそこにあった小龍包と桃まんじゅうを三つずつ取った。シェルドンとディックも知っていたかもしれないが、もし彼らが持ってきてなかったら分けてやろうと思ったのである。

 

(確かにこれは、来ただけのことはあるぞ。べつにこのまま、ディックやシェルドンと美味しいものを食べて、ただだべって帰るってだけでも全然いいし……さっき小籠包を勧めてくれた女性が誰だか全然知らないけど――もしいつか病院内のどこかで会ったら、「あ~、あの時の!」なんてことになるかもしれないもんな。そうだ、なんてことないことだけど、人間関係ってのはそんな些細なことがきっかけで、その後色々話をするようになるとか、十分ありえることだ。それで、その「なんとなく親しくなる」みたいな、そういうことが人間関係の潤滑剤として大切なんだろう)

 

 何分、ホールには三百名以上もの病院職員がいて、おのおの親しい者同士で固まっているため、人声でざわざわしている。ギルバートは美味しいワイン片手に、すでに食事をしているディックとシェルドンの元へ行くと、「ほんと、来て良かったよ」と言って、彼もまた早速食事をはじめる。

 

「けどおまえさん、その高級ダークスーツが汚れんように気をつけたほうがいいぜえ」

 

 七面鳥の胸肉をフォークでぐさりと刺しながら、ディックが上機嫌に笑って言う。シェルドンは高級ローストビーフに夢中で齧りついていた。

 

「ディックのほうこそな。そのボロネーゼなんか、注意して食べないと、おまえのせっかくの綺麗なおべべが汚れるぜ」

 

「何がおべべだか」

 

 そんな他愛のない話をして、三人が笑いあっていた時のことだった。シェルドンが牡蠣を食べ、白ワインを飲み、「かーっ!たまんねえ」などと言っていた瞬間のことである。ディックが「おまえ、当たんねえように気をつけろよ……」と笑った次の瞬間――ふたりの顔から突然にして笑顔が消え、無表情なまま静止したのである。

 

 ディックとシェルドンがふたり同時に顔芸をしているわけでないと気づいたギルバートは、不思議に思い後ろを振り返った。どうやら彼らふたりは、自分の背後にある何かに目を奪われているようだったからだ。

 

 そして、次の瞬間ギルバートにもその理由がすぐわかった。彼自身、何か見てはいけないものを見たような気がして――見なかった振りでもするように、再び真っ直ぐ前を見た。もう一度後ろを振り返る勇気は、流石のギルバートにももうない。

 

「おっ、おまえ、見たかっ!?」

 

「ダメだ、ダメだ。そっち見んな!とにかく、目を合わせないようにするんだっ。で、今後とも自分は何も見なかった、何も知らなかったみたいにするのが一番だぞっ!!」

 

 ディックとシェルドンが何故そんな謎のやりとりをしていたかといえば――距離としてはそんなに近くはないのだが、黒地に赤の水玉模様のワンピースを着、斜めにポシェットをかけた、他でもない脳外科の女怪獣と恐れられるダイアナ・ロリスの姿がそこにはあったからである。

 

 はっきり言ってしまえば、彼女の姿は誰の目から見ても浮いていた。いや、実際床から風船のように五センチほども浮いてないのが不思議なくらいですらあったろう。男性は大抵がスーツか、それに準じた正装をしており、片方のポケットに手を入れたまま、もう片方の手ではシェリー酒を楽しみつつ、談話している……そして女性もパーティドレスを着ているか、そこまででなくても、カラフルなスーツを着ていたりと、みなちょっとした素敵な「おべべ」を身にまとっている――大体のTPOとして、誰もみなそのような雰囲気だったのである。

 

 ところがダイアナ・ロリスは、「自分はそんな普通の型に当てはまらない女なのよ」とばかり、でっぷりした体に「一体どこで買ったのだろう」、「というか、よくサイズあったな」、「まさかオーダーメイド?」といったような水玉模様のワンピースを着て現れ――食事をすることだけがここへやって来た目的とばかり、トレイにこれでもかと食事をのせると、空いていたテーブルへ座り、ひとりそれをがっついていたのである。

 

「ありゃ、絶対男なんかいないぜ。あの女が太ってるとか、180ばかりも身長があって、男みたいにがっしりした体格だとか……それ以前の問題だ。しかもあの見事な食べっぷりを見ろよ。怪獣どころか、そんじょそこらのフード・ファイターをもKOしちまいそうな勢いじゃねえか」

 

「確かにな。つか、流石にあのファッションセンスはないぜ。確かあいつ、今三十いくつとかだよな?だったら、こうしたパーティには今までにだって何度も出席してて、雰囲気なんかもわかってるってことだろ?だったら一体ありゃ何アピールだってんだ?」

 

「もしかして、芸術家のヤヨイ・クサマのファンとか……」

 

 ギルバートはダイアナ・ロリスの名誉が傷つかないよう、そんな控え目な言い方をした。

 

「いやいや、そりゃねえだろうよ!」

 

 シェルドンはちょっとした小山のような怪獣のほうは見ないようにしつつ、小声で言った。

 

「まさか、実は水玉恐怖症で、恐怖心克服のためにいつでもあんな手合いのワンピースばっか着てるってわけでもないんだろうしな。つか、周囲の人間の反応について、あの女は本当に気づいてないんだろうか?」

 

 ――実際のところ、ダイアナ・ロリスが食事するテーブルのまわりには、誰ひとりとして人が寄りつかなかった。彼女の半径5メートル以内に近づいたとすれば、きっとそこらへんで地雷が爆発しかねないと、恐れてでもいうように……。

 

 だが、その後も三人が、ダイアナ・ロリスの存在にまったく気づかぬ振りをして食事していた時のことだった。地雷を恐れぬひとりのソルジャー外科医が、トレイを片手に彼女の向かい側の座席に座ったのである。

 

「おっ、恐ろしい……!!一体どこの誰だ、あいつ。下手なこと言って、炙り肉の残りの骨で撲殺されても知らんぞ」

 

「な、なんという命知らずな。怪獣の奴の親父、レスリングのチャンピオンなんだぜ。その影響であいつも小さい頃からレスリングやってるだけじゃなく、その他トライアスロンやらなんやら、今もその世界じゃちょっとした有名人らしいからな」

 

 ダイアナ・ロリスの父親がオリンピックでメダルを獲ったことがあることや、トライアスロンが趣味といったことを何も知らないギルバートは(そうだったのか……)と思った。勇気を振り絞り、もう一度だけ後ろを振り返ると、水玉のワンピースを着た怪獣のほうを眺めやる。

 

(おや。あ、あれなるは……!!)

 

 炭火で炙ったリブロースに齧りつくダイアナの向かいに座っていたのは、ギルバートが手術室の受付前で出会った、腫瘍外科医のリロイ・オーウェルであった。まるで怪獣が肉にかぶりつくように食事していても、彼は一向気にならないらしく――同じように北京ダックに齧りつきながら、陽気に笑って何か話している。

 

 残念ながら、彼らが何を話しているのか、その音声まではギルバートたちの元までは届かない。そしてこの時、何故だか美味しい食事がすっかり喉を通らなくなったギルバートは……あのふたりのいるテーブルへ移動すべきかどうか、迷っていたのである。

 

(そうだ。一応話題ならある……『あのあと、あの時の子宮全摘出術の患者さんはどうなったんですか?』とでも、さり気なく聞けばいいんだ。このパーティは大学病院内における懇親会なんだから、鬼がでるか蛇がでるかわからないにせよ、こんな些細なことをきっかけに、今後少しくらいはロリス医師の俺に対する評価が変わるってことだって、ないわけじゃないんだから……)

 

『あら、あんたたち知りあい?』

 

『いやあ、手術室の受付んとこで例によってモメてるところを見られたってだけさ』

 

『ドクター・ロリスから胃ろう増設術の予約入れてこいって言われた時のことですよ』

 

『あら、そうだったの~。あっはっはっ!!』

 

 ――といったような、極めてポジティヴな会話のワンシーンをギルバートは想像してみたが、普段楽観的な精神構造の彼をして、この時ばかりは何故か体が動かなかったといえる。また、この機会に『俺、将来脳外科の専門医になることも視野に入れてます。でも、指導医であるロリス医師のほうで、今後とも俺に対して何か偏見めいた態度を取られるのでしたら……』といったように、あくまで控え目に申し立てることも出来るだろう。そしてそのためには、もうひとりくらい少しは味方してくれそうな医師が近くにいてくれたほうが望ましいのは言うまでもない。

 

 いつもならギルバートは、『やらないで後悔するよりは、やって後悔したほうがいい』といった選択基準で生きていると言ってよい。だが、この時ばかりは(もし失敗して、今以上に関係が悪化したら……)という失敗イメージのほうが先行するあまり――彼らしくもなく、再び後ろを振り返る勇気すら持てなかったのである。

 

「あの黒人、あいつの彼氏なのかな?」

 

「まっさかあ!!流石にそりゃねーだろ」

 

 その後も、ディックとシェルドンが小声でそんなふうにボソボソ話していると――ギルバートにはわからなかったが、リロイ・オーウェルが席を外したらしい。実は彼はこの時、病院のほうから呼びだしを受けたのである。

 

「あっ、黒人がどっか行っちまった」

 

「あの女と一緒にいると、流石にそろそろ自分の人間性が疑われると思ったんじゃねーの?」

 

 ギルバートはこの時、思いきってもう一度だけ、ダイアナのいるテーブルのほうを振り返って見ることにした。だが、リロイ・オーウェルが去ったあと、彼女と食事をともにしようという人物は、誰ひとりとしてその後も現れないままだったのである。

 

「やれやれ。なんかもうすっかり食欲がそがれちまったな。あの女ゴジラのせいで」

 

「だよなあ。またなんか食事とりにいった時にうっかり鉢合わせちまって、『あら、あんたたち……』なんてことになったら大変だぜ。ここはさ、あいつがひとり孤独に食事にがっつく姿だの、黒地に赤い水玉なんつー恥かしいファッションでパーティに馳せ参じたなんて、まったく知らぬ存ぜぬって振りをするためにも、とっととズラかったほうが絶対いい」

 

 ギルバートはシェルドンとディックにそんなふうに同意を求められ、「ああ。そうだな」と、どことなく曖昧に頷いた。何故かというと、少しばかり不思議だったのである。誰と話すアテもなく、こんなパーティ会場へなど、やって来るものだろうか?彼ら三人はセレブのぼんぼんといったところではあったが、カツカツの医学生であれば、この機会にとばかり、食事をたらふく腹に詰め込もうとしたことだろう。だが、ダイアナ・ロリスはすでに指導医と呼ばれる地位にあり、収入が軽く六桁を超えるような立場だと噂で聞いた。それなのに何故、のこのここんな場所へやって来て……不様な姿といってはなんだが、わざわざそんな不快な姿を周囲にさらしているのだろうか?

 

(彼女ほど頭のいい人間であれば、人から何を言われずともわかっていそうなものだし……何か理由でもあるのか?それとも、医学部ですでに数人見かけているように、『あいつ頭よすぎてちょっとおかしいよな』という、実はダイアナ・ロリスもそっちタイプの人間だったということなんだろうか?)

 

 そして、触らぬ神ならぬ怪獣に祟りなし――とばかり、シェルドンとディックがそっと席を立とうとするのに合わせ、ギルバートもまた立ち上がろうとした時のことだった。周囲の女性のこんなヒソヒソ声が聞こえてきたのだ。

 

「やあだ。なあに、あれ!」

 

「意地汚いわねえ。何科の誰かしら?先生ってことはないだろうから、きっと看護師ね。しかも、あの格好見てよ。いくらファッションセンスなかったにしても、流石にあれはないでしょ」

 

「ほんとほんと!っていうか、家族の誰も止めなかったのかしらって感じ」

 

「恥かしいっていうか、あそこまでいくと、なんかカワイソウ~って感じよね。孤独な中年女の悲哀がこっちまで漂ってきそうだわ」

 

「そんなのに感染しないように、近づかないほうがいいわよ。もし感染したら婚期が十年くらい遅れちゃいそうだもん!」

 

 ――若い看護師たちのそんな会話を聞いて、ギルバートは突然にして考えが変わった。「あ~あ。ちょっとくらいああいう子たちをナンパしてから帰りたかったぜ」などと、シェルドンは小声でぼやいていたが……こそこそホールの扉へ向かうふたりから離れると、ギルバートは真っ直ぐ、ダイアナ・ロリスのいるテーブルのほうへ向かうことにしたのである。

 

 おそらく、医学生の彼らがパーティへ来ているとは想定外だったのではないだろうか。ダイアナ・ロリスは口許にさっき食べたリブロースの肉汁をたっぷりつけたままだったので――ギルバートの姿を見るなり、テーブルにあったナプキンで慌ててそれを拭っていた。

 

「あら、あんた一体何よ。まだ医局員ってわけでもないのに、なんでこんな場所にいるのよ?」

 

「理由なんてどうだっていいじゃないですか」

 

 ギルバートはリロイ・オーウェルが先ほどまで腰かけていた椅子を引き、そこに座った。ディックとシェルドンといえば、シェルドンは「おえ~っ!何やってんだ、あいつ」というあからさまな顔をし、ディックはといえば、「運を天に任せるしかない」とばかり、両方の手のひらを天井に向けて首を振っている。いや、もしかしたら「運を天に任せる」のではなく、「これでギルバートの医師人生は医者になる前に終わった」と、そう言いたかったのかもしれない。

 

「ま、まあそうね。それで、一体わたしに何か用?」

 

 思わぬところを見られてしまったとばかり、ダイアナ・ロリスはどうやら決まり悪いと感じているようだった。少しばかり食べるペースを落とし、ゆっくり丁寧に咀嚼しながら食事することにしたようである。

 

「俺が……もし脳外科の専門医になりたいと思ってると言ったら、どうされますか?」

 

「べつに、いいんじゃない?もしわたしの下にいるのが嫌だっていうんなら、他の指導医のダニエル・オースティンあたりにあんたのこと頼んだっていいのよ」

 

 そうなのだった。ギルバートにしても、最初の頃はよくそう思っていたのだ。だが、今は俄然考え方が変わってしまった。たったこんな程度のことでより好みをするようでは、この先医師として大成することなどないだろう、といったように。

 

「たぶん問題は、そうしたことじゃないと思います。俺の一体何が気に入らないのかわかりませんが、あなたに俺に対してしっかり物を教える熱意がないように感じられることが一番問題なんだと思うんですが、いかがですか?」

 

「そうねえ……」

 

 思ってもみなかった場所で突然図星をつかれ、ダイアナにしても少々尻込みした。実際のところ、ダニエル・オースティンからは『あいつ、最初は顔だけの奴かと思ったら、結構ちゃんとした奴だぜ。俺は嫌いじゃないな』といったように聞いていた。かといって今さら自分の早とちりをあやまるというのも、何やら気恥ずかしい。

 

「じゃあまあ、今後はわたしもそうした方向性で物を考えるってことでいい?てっきりあんたは、テレンス・フォードの病院を継いで整形外科医になるんだろうと思ってたし……もちろんだからといって、脳外科病棟での指導を疎かにしていいってことじゃないけど、次に腰椎穿刺するなり、IVHを留置するだのいう時には――まあ、やってごらんなさいよ」

 

「本当ですか!?」

 

(じゃ、これで話は終わりだ。というか、こんな恥かしい女と一緒にいたら、自分の人間性が疑われる)――というのでなしに、ギルバートはすっかり上機嫌になると、再びちょっとした食事の品をトレイにのせ、ダイアナ・ロリスの真ん前へ戻ってきた。

 

 周囲では、恐ろしい水玉怪獣と美青年が同じ座席にいるのを遠まきから不思議そうに眺めていたが、ディックとシェルドンもまた親友を置き去りにするのは流石に気が引けたのであろう。同じようにトレイを手にして、ダイアナ・ロリスのテーブルに座った。

 

「あら、あんたたちまでいたの?」

 

「ええ、まあ……」

 

 会話の間が持たないと思ったのであろうか、シェルドンは直截的にズバリとこう聞いた。

 

「その水玉模様のワンピース、素敵ですね。どこで売ってるんですか?」

 

「馬鹿っ、おまえ……」

 

(今期の実習の成績がどうなっても構わんのかっ。というよりおれまで巻き込むなっ!)

 

 そう思い、ディックがシェルドンの足の甲を踏んでも、すでに時遅しだった。ダイアナ・ロリスは「くふふふっ!」とさもおかしそうに笑いはじめ、最後にそれは静かな忍び笑いに変わる。

 

 ギルバートはといえば、自分は食事に夢中で何も聞こえなかったという振りを決め込んでいたものである。

 

「そんなにおかしいかしらねえ。この格好で歩いてると、みんな『あの頭のおかしい女はなんだ』みたいな目でこっちを見てくるのよ。というより、目を合わせないようにしながらこっちを見ようとするっていうのかしらね。年の離れた妹にもね、『恥かしいから近くに寄らないで』ってよく言われるの。妹とわたし、ちっとも似てないのよ。妹のピッパちゃんと来たら、妖精みたいにほっそりしてて可愛いらしいんですものね。母さんも、長女は何かの遺伝子の不具合で怪獣みたいになったけど、妹は普通に可愛く育って良かったって、そう思ってるみたいよ」

 

 怪獣がしんみり落ち込むようにフカヒレスープをすすっていたため……この時以降、ギルバートもディックもシェルドンも――自分たちの絶対上司に対する考えを変えた。(ああ、そうか。ただの典型的なファッションオンチか)とシェルドンは思ったし、ディックは(なんだ。この女、自分が陰で怪獣ってみんなから呼ばれてることもちゃんとわかってるんじゃねえか)と、ある種の尊敬の気持ちが芽生え、ギルバートはといえば――(今後は普通の一般医学生と指導医の関係になれそうで良かった)ということで、心からほっとしていたのである。

 

 またギルバートには、リロイ・オーウェルの言っていた『あいつ、あれで結構可愛いところもあるんだぜ』とか『怪獣だって、怪獣に生まれたくて生まれたってわけじゃないだろうしな』といった言葉の意味が、急速にわかってきたというのがある。

 

 このあとも四人は同じテーブルに座ったまま歓談を続け、某有名イリュージョニストのショーと、同じユト大医学部卒で、途中からコメディアンに転向した変わり者の<ドクターズ>というコント師ふたりのお笑い芸を見て、大笑いしてから帰ってきた。ダイアナにしても、彼らのコントと美味しいホテルの食事だけが目的で、せっかくの休日にこんな場所までやって来たのだという。

 

 

 >>続く。

 

 

 

 

 


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