将棋で終わりの局面のことを『詰み』という。その一歩前の局面を「詰めろ」、そして一歩手前で受けがない状態を「必至」と言う。
ちなみに「王手」は詰めろでも必至でもない。将棋を覚えたての頃は、王手をかけたくなるだが、「王手は追う手」という格言があり、逆に逃してしまうケースも多いもの。
将棋が上手くなってくると、すぐに王手をかけずに、まず包囲網をつくってから最終的に王手をかけて詰ますようになる。
終わりでしくじることを「詰めが甘い」と言う。言うのは簡単だが、きちんと寄せて詰ますことは簡単ではない。
限られた時間の中で、特に最終盤の秒読みで一手を争うような寄せ合いの時は、考える余裕がなくて読み切れなくて悪手を打ってしまう事がある。
詰めが甘いとそれまでの積み重ねのリードや優勢が一瞬で台無しになるわけで、大胆さと慎重さを併せ持つ必要がある。
一昨日の王将戦予選リーグ第2戦(藤井VS豊島)で、藤井棋聖にまさかの出来事が起きた。恐らくプロ入りして4年目で初めてのことだろう。
中盤で優勢を築き、終盤で勝勢モードに入った藤井棋聖は、AIによる評価値が99対1から100何手目かでよい決め手が浮かばなかったのだろう。
金で相手の香車を取る何気ない手を指してしまった。相手の王を囲む包囲網が緩んだ悪手だった。そこから耐えに耐えた豊島が息を吹き返して王を安全にしてから反撃に出る。
豊島竜王がなかなか気付かない最善の受けを連発して局面を複雑化したことも藤井棋聖の緩手を誘う大きな要因だった。
この数ヶ月、秒に追われてもあれほど正確に指してきた藤井棋聖が攻めで緩手、悪手を連発するとは!
豊島竜王に通算成績が0勝5敗と唯一負け越している相手に何か目に見えない苦手意識や心理面がはたらいたのだろうか?
長い棋士人生のほんの4年目、まだまだこれから長い勝負人生が続く。ほんとうに強くなる人は、一つ一つの負けで敗因を繰り返す事なく更に強くなる。
小さなミスも大きく報道されてしまう世の中のマイナス要因とも闘わなければならない。勝負の世界でスター選手が背負う宿命でもある。
早く立ち直って王将予選リーグの残り4戦、藤井棋聖らしい将棋を見せてもらいたい。明後日から羽生先生のVS豊島竜王戦が開幕する。心底応援する。
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