2月22日をニャーニャーと掛け合わせて『猫の日』だというのを、つい最近知ったオレンジの責任者は、いろんな日があるもんだと軽ーく思った。大学構内ではたまに猫の姿を見かける。別に誰かの飼い猫では無いのだろう。警戒しながら走り去っていく姿を眺めるだけだ。
セラピー犬はいるが、セラピー猫というのは聞かない気がする。まあ、猫は勝手気ままに生きる生き物だから、色々な規制がある仕事は向かないに違いない。
「速水先生。桜もちの谷口先生から電話です」
桜もち? 最近、うちのありすも世話になっていないし、二階のセラピー犬がトラブったという話も聞いていない。何だろう。と思いつつ、外線を受ける。
「速水君。久しぶりだね。元気かい?」
「お久しぶりです。元気ですが…」
と答えつつ、誰だ?と記憶のタンスをひっくり返す。
「公平君も相変わらずのようだね」
公平君。公平君って、誰だったけ?
「公平って、田口ですか?」
「もちろん、僕の先輩だった田口先生の息子さん。君の嫁さんだろう。先輩がアフリカでゾウの孤児院で、うちの息子が嫁に行った!って叫んでいたからね。周りは良かったですねぇって、たくさんのお祝いの品をあげたら、先輩は嬉々として日本に送っていたけど何か貰った?」
いったいいつの話だ。とは思いつつ、リビングに掛けられている田口の物とは全く考えられない精密なサバンナの絵が彫られている額を思い出す。アフリカを知らない者には書けないだろうと思えるほど、生き生きとした動物たちの姿は、速水のお気に入りだったりする。すっかり忘れていたが、田口の父親は野生動物専門の獣医だ。
「その節はお世話になりました。で、今日のご用件は何でしょうか」
「ああ。君の所の二階に子猫を連れて行っていいかな。うちの院生が猫によるセラピーに関する研究をしていてね。一般の子どもの反応については付属小学校でサンプルが採れたが、それだけではインパクトが足りないから、小児病棟の子どもたちもサンプリングさせて貰えないかと」
「奥寺教授は何と?」
「君がオレンジ新棟の責任者だから、君からはんこ貰ってね、だそうだ」
「……奥寺先生がOKなら、いつでもはんこは押しますよ。でも、感染とかの危険は無いように十分管理をお願いします」
オレンジ新棟の責任者は、時として上の階の小児科、果ては産婦人科の病棟としての活動に関する許可が申請されるのだ。内容を見てもサッパリということも、速水にはある。
「分かっているよ。あとで、書類を送るからはんこ、よろしくね」
面倒くさい。と思いつつも、はいと返事は優等生よろしく返す。
「と言うわけで、猫が来るらしい」
「猫?」
田口が怪訝な声を上げた。
「お前んとこの親父さんの後輩から、二階に依頼だとさ」
「じゃあ、変な人だ」
田口が断言したので、速水はへっ?となった。
「うちの父さんは野生動物命で、今でもアフリカだからな。その後輩も押して計るべし…かな」
「猫だから、変でも無いだろう」
田口手作りの弁当を医局で食べているので、速水の言動もごくノーマルモードだ。ちなみに、先ほどまでガツガツ弁当を食べて、ヘリと一緒に飛んでいった和泉の弁当も田口作だったりする。
「本当に猫なのか? ランオンとか、トラとか、ホワイトタイガーとか、猫にはいろいろいるんだぞ」
「まさか。ライオンなんているわけ無いだろう。桜もちだぞ」
「いや。桜もちだから怪しい。俺が子どもの時、父さんが連れてきたのはホワイトタイガーに、ライオンに、ジャガーにヒョウに…。あと、アリクイにダチョウの雛もいたっけ…」
遠い目をして、次々と動物名を挙げる田口に、速水は再度確認をしなくてはと思った。
※『猫の日』もっとニャーニャーできたら良かったのですが、他の方が田口に猫耳が生えた話などを書いていらっしゃったので、かぶるのはなぁと思ったら、こんなのしか出てきませんでした。そう言えば、夜になると、猫の縄張り主張の声が『うにゃー』と聞こえます。春近しですかね。
それにしても、私の新車をトイレ代わりにする鳥たちに困っています。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます