久しぶりに東城大学教育学部付属小学校に顔を出した田口。顔見知りの教師から挨拶やら、相談やら、ここでも引っ張りだこ…。本来なら、救命救急センター長の速水か小児科のドクターが行くはずなのだが、なぜか忙しいだの、会議があるなどで田口に押しつけられることが多い。
まあ今回は、来年度の健康診断日程調整という電話でも全然OKなことなので、誰が対応しても構わないと言えば構わないのだが。
今回も、なんで、俺が?と思いながら、田口は勝手知ったる付属小の保健室に向かった。
「こんにちは。山原先生」
「あらっ、田口先生。わざわざ、すみません」
「いえいえ。毎回、代理の私ですみません」
お互いに、すみませんが挨拶なのは、毎度のことだ。
「お待ちしていました、どう…」
ぞ、と山原が言おうとしたとき、ピッピッピーと、田口も聞き慣れた電子音が響いた。
「体温、計れた?」
山原は保健室のソファに座っていた子どもに近づくと、体温計を受け取り、
「やっぱり、熱があるから、担任の先生に言って早退しましょうね」
と言った。そして、近くにいた上学年らしき子どもに、この子のクラスに行って、担任の先生を呼んで来てと指示する。周りを見れば、あと2、3人、検温中の子どもがいた。
「大変ですね」
小児科外来待合室のような様子に、田口は何か流行っていたっけ?などと考えた。
「こんなの何時ものことです。子どもは倒れるのと吐くのは当たり前です」
「えっ!」
さらっと恐ろしいことを聞かなかったか?と田口は思い返す。子どもは倒れるのと吐くのは当たり前?
「ええ。てんかんの初発発作でよく倒れます。てんかんと確定されるまでは、何度も学校で倒れますよ」
「はあ…」
と、田口が返事をしていたら、30台ぐらいの男、たぶん教師だろうが慌ててやって来た。
「山原先生。うちの子どもが給食の嫌いなものを牛乳で流し込もうとして、吐きました。ゲロゲロセットを借りて行きます」
「どうぞ。ゲロセットはこれ、あと消毒剤はこれよ」
山原はてきぱきとかごを用意して、手渡した。
その後は1年生が運動場で転んだと言って来た。3年生はドッヂボールが指に当たったと、泣きそうになっていた。4年生は運動場で泣いていた子がいたと、心配そうに一人の男の子の手を引いて来た。そして、6年生の女子数人は、暇だから来たよーと言いつつ、田口を見ると、失礼しましたーと去って行った。
とにかく、次から次へと、子どもたちがやって来る。
田口は自分の時間が開いたところを選んで、附属小学校を訪ねたつもりだったが、こちらの保健室は昼休みという千客万来タイムだった。
「毎日、こんな感じなんですか?」
「昼休みは、ええ。これでも、けが人は減った方ですよ」
けらけらと山原は笑った。側で子どもたちも、減ったよねぇと笑っている。田口は以前、速水が『付属小の保健室に行ってみろ。野戦病院だぞ』と笑っていたのを思い出して、この大勢の子どもたちの対応を、苦も無くこなしていく保健室の先生、養護教諭を尊敬のまなざしで眺めた。
※小学校は1年から6年まで幅広い子どもたちが在籍しているので、先生たち大変だろうなぁと思います。先日、小学校の先生と話す機会があったのですが、給食中、口の中に詰め込みすぎて吐く。慌てて食べて吐く。のどに引っかけて吐く。嫌いな物、ピーマンやトマトとかを口に入れて吐く。笑いすぎて吐く。くしゃみして吐く。おかわりしすぎて吐く。そして、しゃがんだときに自分の膝が腹部を圧迫して吐く。…小学生、吐きすぎです。
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