連日、新型コロナ関係の文書があちらこちらからやって来ます。毎日更新される新情報に振り回されかけています。そんな中、うちのDr.速水に簡単な予防法などを教えて貰いましょう。
「初期症状としては発熱、咳、筋肉痛、倦怠感を感じているらしい」
「らしいって何?」
田口が速水につっこみを入れる。
「情報が少なすぎるんだよ」
「日本でも患者は出ているから、そこからの情報は無いのかよ」
「厚労省にそんな暇あるか? コロナウイルス群はMARS、SARSを含むけど、元々はかぜ症候群の原因ウイルスだ。通常レベルのコロナは、だいたい6歳ぐらいまでにほぼ感染するらしい」
俺は救命医だから詳しいことはもう忘れた。と速水は付け加えると、田口の横にごろりと横になった。
「と言うことは、感染経路は…。咳やくしゃみが怪しいな」
田口が呟くと、
「怪しいんじゃなくて、ほぼ感染源だ。だから、手洗いの徹底が必要なんだ」
と、半分呆れ口調で速水はちらっと、田口の方を見た。
「手洗いか…。寒いから、手洗い面倒だよなぁ」
「…行灯。お前、小学生かよ。医者がそんなこと言ってたら、元も子もないだろうが」
はぁ。速水はため息だ。
「だって、水冷たいし…。お前だって、うちで手洗ってる?」
「…まあな」
帰宅後の手抜きの姿を、見ていないようで見られていた速水は、否定できずにゴロリと田口に背を向けた。
「しかも、石けんをつけて30秒以上洗わないといけないなんて、一般の人は知らないだろう」
田口は速水の背中をぽんぽんと叩きながら、お前ですら、面倒なんだもんなと笑った。
「そう言えば、行灯。お前、付属小に手洗いの指導に行っていたよな」
ころんと寝返りをした速水が、田口に尋ねた。
「ああ。この前、健診の打ち合わせついでに、子どもたちに楽しい手洗いの方法を教えてきた」
「それ後でうちの和泉と滝沢に指南しろ」
「和泉に? 何で?」
何で救命救急医に手洗いを、自分が教えなくてはいけないのか? 至極まっとうな疑問を田口は、速水に向けた。
「一般人に手洗いを教えるのに、病院のTwitterに動画を載せるのはいい考えだろう。ついでに、病院のホームページにもトップ画面で上げる。そうすりゃ、みんなに手洗いの方法が分かるだろう」
「確かにいいかもな。でも、それに和泉たちを使うのは…」
「ああ? あいつらはそこそこ顔がいいから、効果あるんじゃないか?」
自分の部下の顔出しを考えるなど、田口はオレンジのメンバーに同情する。
「まあ、和泉たちを出すのは別として、いいかもな」
「だろ? なので、明日、あいつらの説得をよろしく♥」
ちゅっと色っぽい目で田口にハートを飛ばす速水。
「何で俺が~。速水がしろよ、自分のとこのメンバーだろう」
全力で拒否する田口。
「俺が言うと、部長命令になるだろう?」
「……どっちみち、そうだろう」
不満げに田口は速水に言う。最近の速水は面倒ごとを田口に押しつける傾向がある。
「あのなぁ。俺はお前の御用聞きじゃないんだから、自分でやれよ。最近は色々と忙しいんだよ」
電子カルテ導入委員会の委員長が終了すれば、AI関係の委員長をやらされ、それが落ち着けば…。論文を出さないままに、講師の地位にいるための取引だったのだが、そうはうまくいかないのが世の中で、さすがに田口も論文の1つでも書いたが、楽になれるのではと考え始めていた。
「確かに、行灯は高階さんの代行状態になりつつあるもんな。あの人、何考えているんだか。天窓のお地蔵様はそっとして、拝むもんだろう? それなのに、表に出すもんだから、色んなやつがお前を拝む羽目になって…」
ぶつぶつ、速水が不平を漏らし始めた。田口は何のこと?である。新型コロナウイルスの予防法について話していたのに、話が変なところに向かっているような。取りあえず、話を元に戻すことにする。
「で、新型コロナの対策は? 手洗いでいいのか?」
「基本はな。他にはアルコール消毒も効果があるらしいから、できるだけの対処はお前のところの外来でもしておけよ」
後で高階さんに消毒薬の配給をしてくれって頼んでおくけどな。と速水が付け加える。
「…ああ、分かった。けど、うちの患者さんたちは基本、体調はいいけど…の人が多いからな」
「かといって、油断は禁物だぞ」
速水は真面目な顔をすると、田口に手を伸ばして、抱きついた。
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