大晦日(その2)
速水の運転する車で近くのスーパーに向かった二人だったが、駐車場はかなり車が多い。
「こんな離れにしか空いたとこないのかよ。だったら、歩いて来たが早かったな。ったく、何でぎりぎりに買い物に来るやつが多いんだ? 大晦日ぐらい家の掃除しろよ」
入り口までかなり距離があるのに、ブツブツ速水が文句を口にする。
「歩くと行きはいいけど、帰りの荷物が重すぎて持てない」
と、田口は呟いた。マンションからこのスーパーまでは歩いても5分。なので、普段の田口はもっぱら自転車で通っている。
「確かに…」
それ以上、速水は不満を口にすることなく、田口を目で促すとすたすたと歩き始めた。
店内はすっかり正月ムードである。確か一週間前は、クリスマスだったよな。と、田口は目まぐるしいディスプレイを思い出しながら、メモを取り出し、どこから回ると効率がいいかを考えた。速水は店内カートにカゴを乗せて、田口を待っていた。オレンジ新棟の主役は速水だ。しかし、家の主導権はほぼ田口にある。自覚があるのか、ないのか。よく分からないが、速水と同居し始めたときには、家の主導権は田口に与えられていた。もっとも、速水は自分から医者を取ったら、何も残らない思っているからかもしれない。
田口は生鮮品を後に回して、先に乾物などの棚の間を歩き回る。そして、手際よくポイポイと食材をカートに入れる。スーパーが休みの間の食材は結構な量になる。車で来ているので、重たい味噌や酢なども買う。
「こんなに行灯、食べるのか?」
「俺だけじゃなく、お前だって帰ってくるし、休みがあるだろう…」
「…そっか。自分の存在を忘れていた」
「……」
一緒に住んで何年経つんだよ。田口が心の中であきれた突っ込みをしているのに気づかない速水は、面白そうにこれ何だ?と言いつつ、棚を眺めている。
「さてと、だいたい終わったから、お菓子コーナーに行くか?」
「おう!」
待ってましたと速水がカートを押していく。その後を田口は笑顔でついて行く。
「あっと、速水。買いだめするなら、もう一つ、カゴを持って来いよ」
「そんなに買わないからいい」
そんなことを言いつつ、速水はお菓子の陳列棚から、チョコをいくつも手に取る。そして、パッケージと裏の内容を確認してから、カゴに入れる。その横で、田口はのど飴を入れていく。話を聞く機会が多いので、のど飴は必需品なのだ。それに、患者にどうぞとあげるときも、のど飴だと断られにくいのだ。しかし、今日はいつも飴を咥えている速水用に、新製品と銘打ってある袋をいくつか選んだ。
最後に、生鮮品を揃えて、本日の買い物は終了だ。
レジに並べば、周りのカゴもいっぱいに商品が入っている。中には、カートの上下二段のカゴにあふれんばかりの商品が入っているものもあった。
「チェックすんだのは先に持って行って詰めておくから、お前はゆっくり来いよ」
速水は田口の横からひょいとカートを運んで行く。レディーファーストもとい、速水の田口ファーストは徹底している。荷物が多いとき、その点では毎回、助かっている。自慢じゃないが、田口は体力には自信がない。
速水は大きなマイバッグ2つに、食材をきれいに詰め替えると、
「よっと」
と、軽く両手に持った。
「速水、ありがとう」
「どういたしまして。これぐらいお安いご用」
「うん」
そうして、二人はスーパーを後にしたのだった。周りの興味深げな目には気づかなかったのは、田口だけかも。
☆続くのでしょうか。オチなし、やまなしです。
1月24日追記:フォントが大きいので小さくしました。
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