とある年上の女性起業家と約5年ぶりに再会した。正確には、起業しようと動き出した女性。まったく別の、かなりデリケートなテーマでご主人もろとも夫婦で何度か取材させてもらって以来、時候のあいさつでうっすらとつながっていた。主婦だった女性はひょんなことから起業を目指し始め、記者だったアラフォーおっさんは勢い余って協力隊員となり、互いに「おもろそうなこと、やってますね」と話をすることになったのだ。
女性は広島市内のショッピングモールのフードコートで、着物姿で待っていた。なにせ、インドの伝統刺繍生地を使って、和装の帯や足袋をこしらえるブランドを立ち上げようとしている。
「どうも! なんか、前より元気そうですね」。お互い同じようなことを言い合う。かなり限られた時間だったので、隊員はすぐに質問攻めをスタート。女性は以前の取材時のように、質問の意図をほぼ的確にくんで、はきはきと正確に語ってくれた。
趣味の着付けをきっかけに、インドの伝統生地を扱う関西の女性と知り合ったこと。生地を和装に取り入れてみたい、とひらめいたこと。全国を駆け巡って相談を繰り返すうち、業者と試作品まで作ってしまったこと。近く、個人事業主として「仕事」を始めることになったこと。未踏のインドに一度、行ってみたいこと…。
小さな芽がコロコロと動きだし、出会いが出会いを呼び、未知の世界へ楽しく転がっている。人生のピタゴラスイッチ。
初めて取材した5年前、女性はかなり悩ましい状況にあった。追い込まれていた。内容は伏せておくが、人生、人格、尊厳にかかわるテーマで取材を重ね、見解をぶつけあった末に記事化させてもらった。
「踏み込みすぎたかな。記者のエゴで傷つけたかもしれない」。そんな後ろめたさもあり、掲載後は夫婦に連絡をとりにくかった。しかし、夫婦は近況を知らせる賀状などを送り続けてくれた。
モスのアイスティーを飲みながら彼女の熱い語りを聞いているうち、お互いやっていることはまったく違えど、共通項は多いことに気付いた。それは、手仕事の魅力に引かれていること。土地土地の多様な暮らし、つまり「文化」にコーフンすること。隊員が準備中のウェブマガジンの背骨となるテーマと重なる。そして、和装で現れた彼女のように「小さなことから、自分が動く」のを楽しがっていることも、相通じられた気がした。
あれこれ話を聞くと、中山間地域の課題に「着物」が割って入る余地もあるみたい。「なにか一緒にできるかもしれませんね」。5年前、この女性とこんな話ができるとは思ってもみなかった。
「現代風に気軽な和装も広めたい」という彼女曰く、「母から子へ着物を受け継ぐのは、もったいないからじゃない。愛情のかたち。娘は、知らず知らずに『自分が大切にされている』ことを実感できるんだと思うんです」。
1時間足らずのマシンガントーク。隊員が「前も思ったけど、自分の頭の中を整理しながら言葉にできる方ですね。僕、苦手なんですよ」と言うと、彼女は「そうですか? でも、ありがとうございます」とかしこまって笑った。今度、ご主人と一緒に福富にも遊びに来てくださいと告げ、ドタバタと別れた。
さて、次なる所用。友人のライブ会場に向かわねば。…あれ!? ショッピングモールの駐車券がない。慌てると、いつもこうなる。かわいい女性店員さんになんとか再発行してもらい、エンジンをふかす。すべり込んだライブ会場でのあれこれも面白かったので、後日のネタに。