2022年のベストムービーにあげる評論家も多い、イギリス期待の新星シャーロット・ウェルズによる自伝的ヒューマンドラマ。しかし、公開初日に見た感想を正直に申し上げるならば、その評価少々盛られすぎのような気がする。何せ本人がカミングアウトしているのかどうかもよくわからないのだが、そのファッションや髪型からして監督シャーロットおよびその分身ソフィはレズビアンであり、その父親カラム(ポール・ . . . 本文を読む
大作『TAR』(158分)を見た後だと、上映時間たったの88分という本作のスケールの小さがやたらと気になってしょうがない。長けりゃいいというわけでもないが、内容的にも本作はかなりスカスカだ。オマージュ元の『バルタザールいきあたりばったり』は、主人公のロバ君に悪逆非道の限りをつくす人間の愚かさを、ブレッソンらしく宗教的演出で描きあげた作品だ。バルタザールのしっぽに火をつけたり、お尻の皮が剥けるほどム . . . 本文を読む
誰か書くだろうって黙って見ていたら誰も書きゃしないじゃない、TARがARTのアナグラムだって。私やトッドの最後の映画になるかもしれないってあれほど大風呂敷広げたのに、どうも興行の方はパッとしないみたいね。やっぱりトッドの勘はあたってたわ。たとえ大物俳優(もちろん私のことよ)に渾身の演技をさせたところで、アート作品じゃ客を呼べないって、時代は変わったのね。ウォシャウスキー . . . 本文を読む
黒澤明のオリジナルをご覧になったことがある方にはあまりおすすめできない。カズオイシグロが担当したというシナリオも、オリジナルをほとんど踏襲した焼き直しであり、ノーベル受賞作家らしい脚色がほとんど見当たらなかったからだ。そのイシグロが過去に書いた小説も、どちかというと黒澤明というよりも小津安二郎作品からのエコーを強く感じられるものが多く、黒澤明×カズオイシグロのコラボレーションと聞いた時一瞬よぎった . . . 本文を読む
ポール・ヴァン・ホーベン監督『氷の微笑』(92)のシャロン・ストーンとマイケル・ダグラスが純愛をするとしたら一体どんなストーリーになるのだろう。パク・チャヌクはもしかしたらそんなことを考えながらこの映画を撮ろうとしたのかもしれません。ファム・ファタールは必ずしも悪女である必要はない、そこがこのサスペンス・ロマンの起点だったような気がするのです。聞くところによると、中国人 . . . 本文を読む
前作『スリー・ビルボード』では娘の強姦殺人をきっかけに、怒りで周囲が見えなくなった母親が巻き起こす騒動をブラック・ユーモアたっぷりに描いていた本作を監督したマーティン・マクドナー、戯曲も手掛けている両刀使い、かつアイルランド人の両親を持つイギリス育ちで二重国籍保有者である。1923年内戦勃発中のアイルランド本島が向こう岸にのぞめる架空のイニシェリン島が舞台。お互いの素性がバレバレの島の住民同士、道 . . . 本文を読む
今回A24ではなくメジャー・スタジオにおける製作となったため「頭の中にあるイメージをすべてビジュアル化するには至らなかった」とインタビューで語っていた監督のロバート・エガース。7000万ドルというビッグバジェットがついたせいかスタジオから相当な茶々が入ったらしいのだ。「やりたいことができた」と語っていた前作『ライトハウス』と比べると、万人にも分かりやすい非常にポピュラーなリベンジ・アクションに仕上 . . . 本文を読む
ショボクレ親父役がすっかり板についてきた最近の三浦友和が、なぜかデカプリオに見えてしょうがない。戦後すぐに親父から受け継いだボクシングジムを経営している、糖尿病の会長笹木を好演している。元世界チャンピオンの内藤大介に顔がクリソツの三宅唱監督、聾唖の女性ボクサーが主人公の小説『負けないで!』を読んで映画化を思い立ったらしいのだ。16mmフィルムで撮影されたこの映画、ボクシングものであることは間違いな . . . 本文を読む
前作『アバター』からかれこれ13年経って完成にこぎつけた本作。36年ぶりの続編『マーヴェリック』が大ヒットを飛ばした後だけに、満を持しての公開といえるだろう。前作のファンタジックな世界観に魅了され、仕事をやめ現実逃避した若者が続出したとかしないとか。パンデミックの影響で製作中止になった6ヵ月間、キャメロンは深海探査に没頭していたという。このまま探検を続けるか、それとも製作現場に戻るかで、真剣に悩ん . . . 本文を読む
『世界で一番最悪な人間』とは一体誰のことなんだろう。新しい物を見るとすぐに目移りする主人公ユリアなのか?それともアングラコミック界で成功をおさめ、ユリアと同棲をはじめるアクセルのことなのか?GUARDIAN誌のピーター・ブラッドショーに言わせると、アクセルがその『世界で一番最悪な人間』らしいのだがどうもストンと腑に落ちない。全く個人的な意見で申し訳ないのだが、ユ . . . 本文を読む
映画タイトルの『TITANE』は古の神々“タイタン”を表現しているのだという。主人公のアレクシアは原初神ガイアで、その父であり夫ともなる?消防士ヴァンサン(ヴァンサン・ランドン)は天空神ウラヌスのメタファーであると、ジュリア・デュクルノー自らがインタビューで語っている。濱口竜介の『ドライブ・マイ・カー』やレオス・カラックスの『アネット』と争ってみごとカンヌ映画祭パルムドールに輝いた作 . . . 本文を読む
処女作『ブンミおじさんの森』でも感じたのだが、このアピチャッポン“音”に大変興味がある人っぽいのである。その興味が高じたせいかはわからんが、本作の主人公ジェシカ(ティルダ・スウィントン)が悩ませられる病気=脳内爆発音症候群という奇病にアピチャッポン自身かかってしまうのだ。その病気とコロンビアの山々が描く稜線を何とか結びつけられないか。そんな突拍子もない思いつきから本作は生まれたらしい . . . 本文を読む
映画の神がいるとするならば、残念ながらマット・リーブスにはその才能を与えていなかったのだろう。監督ならびに共同脚本をつとめている本作で、はからずもそれを証明することになってしまった、そんな感想をもたずにはいられない凡作である。この“バットマン”に限らず、MARVELならびにDCコミック元ネタの“テーマパーク型”ヒーロー映画の場合、(別種の)過去作へのオマージュをやろうとするととんだ茶番劇に転んでし . . . 本文を読む
世界最古の職業をなめすぎてはいないだろうか?考えてみれば、マグダラのマリアだって、椿姫だって、『ティファニーで朝食を』のホリーだって、プリティ・ウーマンだって、みんなみんな◯◯だったのだ。そんな◯◯の女の子を◯◯◯にしてしまうなんて、エドガー・ライトという監督一体何を考えているのだろう?
しかも、田舎からポッと出てきたファッションかぶれのガキんちょ娘に、有史以来辛酸を . . . 本文を読む
『マトリックス・トリロジー』のド派手なアクションを期待しているととんでもない肩透かしをくらうことになる。しかし、そのだまされた感は、ウィズ・コロナを余儀なくされている現代社会にとって欠かせないキーワードにつながっていて、SDGs社会を生きていく上で最も必要なセンスを提示している、といっても過言ではないだろう。“チョイス”が全体のキーワードになっているトリロジーでは、キアヌ・リーブス演じるネオが常に . . . 本文を読む