ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

フロスト×ニクソン

2009年09月04日 | ネタバレなし批評篇
意外と良かったなぁという映画を見た後で監督の名前をチェックすると、たいていこのロン・ハワードだったりする。俳優出身の映画監督の中で最もハリウッドで成功をおさめたうちの一人であるロン・ハワードの作品は、はずれのあまりない安定感が魅力といえるのかもしれない。イギリスのTVレポーター、デヴィット・フロスト(マイケル・シーン)と米元大統領リチャード・ニクソン(フランク・ランジェラ)の対談をメインにした一見地味なこの映画、実は120分だれることなく一気に見れるエンタメ・ムービーなのだ。

米TV史上最高視聴率を上げたといわれるこの世紀のインタビューは、まるで矢吹丈と力石徹のボクシング試合を見ているような、ラウンドごとの舌戦が最大の見所となっている。事前にスポンサーを確保できず捨て身の会見にのぞんだフロストに対し、このインタビューを回顧録の出版費用稼ぎならびに政界復帰の足がかりに利用しようとしたニクソン。この映画、リチャード・ニクソンやデヴィット・フロストという実在の人物をたとえ観客が知らなくても楽しめるように、その人間性に迫った演出が実に見事なのである。

政界きっての策士といわれたニクソンのペースに飲み込まれ次第に窮地に陥るフロストは、かつてウォーターゲート事件でホワイトハウスを追われたニクソンの憔悴しきった姿に重なるし、途中途中に挿入される両陣営のスタッフによる回顧シーンなども映画のとてもいいアクセントになっている。水と油のような2人に実は“コンプレックス”という共通項があったくだりなどは、ストーリーテラー=ロン・ハワードの真骨頂であろう。

お互いそれなりに視聴率がとれ金さえ懐に入ればおそらくバン万歳だったと思われる事実をあえて前面に出さず、あくまでも勝敗にこだわったタイトルマッチ風演出をほどこした点が秀逸なのだ。元々舞台劇だった脚本を単なる密室劇に終わらせず、厳しい練習風景(会見の下調べやスタッフとの入念な打ち合わせ)を丹念に描いたからこそ、『ロッキー』もそしてこの『フロスト×ニクソン』もハイライトのメーン・イベントが大いに盛り上がったのである。

フロスト×ニクソン
監督 ロン・ハワード(2008年)
〔オススメ度 

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 悲夢 | トップ | 譜めくりの女 »
最新の画像もっと見る