ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

群山

2024年08月27日 | ネタバレなし批評篇

このチャン・リュルという監督、古今東西の過去作品を相当研究としているとみえ、(蓮實重彦もご納得の?)まるでAIでこさえたような各ショットの構図や映像にはプロの技を感じる。ゆえに『柳川』のように演じる役者の知名度が今一(壮亮ゴメン!)だと、映像とのバランスが非常に悪くなってしまう。今回キャスティングされた韓国人俳優陣は、格という意味では申し分のないトップクラスを揃えていて、その映像美に負けず劣らずの存在感を見せているのだ。

パク・ヘイル演じるプータローの元詩人ユン・ヨンは、ムン・ソリ演じるユンの先輩の元妻ソンヒョンと、日本統治時代の面影が色濃く残る“群山”へ小旅行に出かける。その群山の民泊先に選んだ日本式邸宅の主人が、ホン・サンス作品ではお馴染みのチャン・ジニョンであり、その自閉症の娘を売り出し中の若手俳優パク・ソダムが演じている。民泊の主人は日本の福岡で生まれ育った在日韓国人という設定だ。

一見起承転結のないグダグダしたシナリオのようにも思えるのだが、チャン・リュル作品には一貫して、アジア人種差別や偏見に対して漠然とした疑問を抱いている主人公が登場する。ジャ・ジャンクーやヌリ・ビルゲ・ジェイラン、最近ではアリーチェ・ロルバケルなんかが得意とするマジック・リアリズモ的演出を駆使してあらゆる境界線を徹底的に曖昧にすること、を主たる目的として撮られている気がするのである。

韓国の地にありながら日本の邸宅や庭園が数多く残っている群山という不思議な土地柄、女としたいのかしたくないのかよくわからないユン・ヨンが、フラフラと彷徨う街中には中国式拳法を操る素人が突如として出現するし、朝鮮族差別撤廃の寄付を募る者の発音はどうも北っぽくない。ボケているのか正気なのかハッキリしない元朝鮮戦争兵士の父親、民泊の主人やその娘は韓国人なのに日本語で心情を吐露するし、ユンが尊敬している韓国の国民的詩人だってそのまま中国に住んでいれば朝鮮族だったはずだ。

そして特筆すべきは、群山旅行の前半とその旅行に出掛けるまでの経緯を描いた後半の、順位をわざと逆さまに配置した構成だ。マンチェフスキーの『ビフォア・ザ・レイン』を彷彿とさせるこのループ演出が、過去と現在の境界をより曖昧に見せることに成功しているのである。現実世界そのものがこんなにも虚構化しているのに、あなたたちはまだ朝鮮族とか韓国人とか在日とかの出自で人間を差別しようとしているのですか?中国朝鮮族3世監督のボヤキが聞こえてきそうなトリップムービーなのである。

群山
監督 チャン・リュル(2018年)
オススメ度[]


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