『草の葉』と『川沿いのホテル』同様に、2020年に同時公開された『イントロダクション』と『あなたの顔の前に』は、1本観ただけではよくわからないけれど、続けて観るとなんとなく理解できる密接な関係にある2作品なのではないか。“導入部”とタイトルされた前者は、まだ何者にもなりきれていない青年ヨンスの人生段階そのものを暗示しているともいえるし、後編へと続くまるで誰かさんが見た夢物語の“導入部”のようにも思えるからだ。
『イントロ....』の冒頭では、ヨンス青年の父親が何かを必死にお祈りしているし、『あなた....』でアメリカから突如帰国した姉サンオク(大御所女優イ・ヘヨン)も毎朝欠かさず神に祈りを捧げている。『イントロ....』のヨンスは俳優業に身を投じるが途中で辞めてしまうし、『あなた....』のサンオクもまた女優業をしていた過去が会話の中で明かされる。『イントロ...』のヨンスの彼女が不治の病におかされているという点でも『あなた....』のサンオクと同んなじだ。
多少のキャラクター・チェンジはあるものの、この同時公開された2作品の中で起きている事象は、ほとんど同じといってもよいだろう。まるで『マルホランド・ドライブ』でナオミ・ワッツが観た前半&後半の夢のような関係性にあるのではないか。じゃあ誰の夢だっていうのかって?確か『あなた...』でいい夢を見ながら、その内容を最後まで明かさなかった登場人物がいましたよね。『イントロ...』の母親兼『あなた...』の妹として登場していたジョンオク(チョ・ユニ)である。
未だ就職が決まらずプラプラしている一人息子のことが心配でしょうがなく、若い時に突如として妹の自分に別れも告げずアメリカに旅立った姉サンオクを気にかけていたジョンオクが、優しい夢の中で組み立てたおとぎ話だったのではないだろうか。撮影当日の朝に台本を渡す即興演出の中で、今まで監督ホン・サンスが同一作品の中で行ってきた“反復”を、今回2つの作品に分けて見せた。私にはそう思えるのである。その方が2倍稼げますしね。
『イントロ...』のラストでホテルの3階から海辺をながめているジョンオクが息子に手を振らなかった理由や、『あなた....』の冒頭にリンクしたラストシーンを見る限り、そう考えるのが一番自然のように思えるのである。「抱きしめることそれが愛なのだ」と語ったベテラン俳優のいった通り、ヨンスやサンオクは劇中愛に溢れた優しい抱擁を繰り返す。抱き合った2人の前に隠れていた天使の姿、2作品をご覧になったあなたの目にはたして映っただろうか。
『イントロ...』のヨンスと『あなた...』のサンオクこそ、眠っているジョンオクの枕元に現れた(すでに亡くなった故人の姿として現れた)天使だったのかもしれません。
イントロダクション、あなたの顔の前に
監督 ホン・サンス(2020年)
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