ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

三人の名付親

2023年12月04日 | 誰も逆らえない巨匠篇

この西部劇には、派手なガン・アクションやスリリングな馬上チェイスがほとんど出てこない。正確にいうと、他の映画よりもなぜか駆け方が早く見えるお馬さんのシーンが、最初の方にチョコっとだけ登場する。後は三人の銀行強盗が、乳飲み子を抱いたまま砂埃の舞う荒野をトボトボと彷徨うサバイバルシーンが大半を占めているのである。

それは何故か。本作はクリスマスシーズンの映画客目当てに、キリスト生誕を祝福しに訪れた東方3博士の聖書譚をベースにしているからなのである。これまでにも何度となく映画化されているこの物語は、ジョン・フォード自身が過去に撮ったサイレント『恵みの光』のセルフ・リメイクにもなっているらしい。そこに主演した往年の西部劇スターハリー・ケーンの息子ジュニアが、キッド役で本作にも出演している。

追っ手から逃れた3人がようやくたどり着いた水場は、素人がダイナマイトで爆破したため水が枯れ果てていた。しかし砂に埋もれた幌馬車の中にはなんと妊娠した女がまだ生きていた。ここで女が自分たちを追ってきた保安官の姪であることが、おぼろげながら観客に知らされるのである。フォードは神格性をもたせる意味でこの妊婦をなかなかカメラに映そうとはしない、観客がジレったくなるほどに。そして赤ちゃんの名付親になることを3人に託し女は果ててしまうのである。

この幌馬車内のシーンと最後の洞窟を抜けた時に現れる(キッドとペドロの生まれ変わりと思われる)○○のシーンは、おそらくスタジオ撮影やに思われるのだが、何かスペシャルな、この世ならざる神聖な空気が辺りにハリつめているのである。カリフォルニアはモハーヴェ砂漠のロケーションで、3人にビョウビョウと吹き付ける砂嵐。ナザレのイエスには、奇岩がそこら中に聳え立つデスバレーよりも、干からびた砂漠がよく似合うことを巨匠はよくご存知なのだ。

当然赤ちゃんはキリストの分身であるわけで、三博士が持参したというお土産(乳香、没薬、黄金)の代わりに、キッド→コンデンスミルク、ペドロ→グリース、ハイタワー→サボテンから絞った水をもたらすという設定だ。追っ手をまくためハイタワー(ジョン・ウェイン)ら3人が迂回路を選択するシークエンスも、東方三博士がイエス殺害の意志をもつヘロデ王に居所をつきとめさせないよう別の道を辿って国に帰るという、聖書の記述に則っているのだろう。

赤ん坊のために残り少ない水を飲むことも我慢していた傷病のキッドがいきだおれ、ペドロが骨折で離脱を余儀なくされた後、もうすぐ目的地というその場所でハイタワーにもいよいよ限界がやって来る。その時、誰の目にもそうだとわかるある“奇跡”がおとずれるのである。これを神業と呼ばずしてなんと呼ぼう。フォードが映像作家のみならず、一流のストーリーテラーとしても評価される理由を伺い知れるハイライト・シーンになっている。

イエスが○○に乗って“エルサレム”に入城した故事にちなんだシーンでジ・エンドにしていれば、本作は非常に格調高い宗教映画としての評価を受けられたに違いない。この後のとってつけたようなご都合主義のハリウッド・エンディングが、この映画をポピュリスト好みの陳腐な作品におとしめているような気がするのだ。因みに、ペドロ役のメキシコ人アルメンダリスは後に、末期癌を苦にしたピストル自殺をはかっている。

三人の名付親
監督 ジョン・フォード(1948年)
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