ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

グランドフィナーレ

2018年03月29日 | ネタバレ批評篇


引退した老指揮者兼作曲家のフレッド(マイケル・ケイン)、『人生最期の日』という映画のラストシーンがなかなか決まらない映画監督ミック(ハーヴェイ・カイテル)、そしてある役作りのため宿泊客の人間観察にいそしむ映画俳優ジミー(ポール・ダノ)の3人を中心にストーリーが展開していく。

3人が宿泊する施設は、どうもトーマス・マン原作『魔の山』の舞台と同じ場所にあるらしいサナトリウム。病気療養や肥満解消目的のために、老人ホーム代わりに長逗留している人がほとんどのため、どのシーンもイタリア人らしい美意識が感じられるものの、そこはかとなく死臭が漂っているのだ。

ホテルに宿泊している客の末期的様相を観察しては歪んだ悦にひたる毎日を過ごしていた3人だったが、フレッドの元に王子の誕生日に演奏会を指揮してほしいとの依頼が英国女王陛下から舞い込む。フレッドは私事のためこの申し出を頑に断るのだが、実は妻との別居そして音楽から離れ無気力に生きている悲しい秘密がそこに隠されていたのであった。

スランプに悩んだというフェリーニを思わせる老監督ミックも名監督にたる才能の枯渇を長年の盟友である女優のブレンダ(ジェーン・フォンダ)から指摘され、ハンス・カストルプならぬ俳優のジミーは過去に演じたロボットキャライメージの固定化に悩みながら二者択一の袋小路に自らを追い込んでいく。

この映画の原題は『YOUTH』。それは無知なることではなく、ラストの演奏会で現役オペラ歌手スミ・ジョーが歌っていたように、「あらゆる束縛から解放される」ことだとソレンティーノは観客に語りかける。美の束縛から逃れられないままエッシェンバッハはベニスで死んだが、本作の老マエスロは友人の死をきっかけにベニスで見事若さを取り戻したのである。

グランドフィナーレ
監督 パオロ・ソレンティーノ(2015年)
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