過去に起きた悲しい出来事。そのトラウマからなかなか立ち直れない姉弟を優しい目で見つめた本作は、ケネス・ロナーガンのオスカー受賞作『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016)と同テーマと言っても良いだろう。日本人が大好きなハート・ウォーミングな人間ドラマなのだが、何故か劇場未公開、DVDスルーとなった残念な1本なのである。
敬虔なクリスチャンで一見真面目そうに見えるシングルマザーのサリー(ローラ・リニー)が、お勤め先の銀行支店長(マシュー・ブロデリック)と不倫にはしるくだりが、日本のウォーク・カルチャーには相応しくない、と配給会社のお堅い役員の方々が思ったのかもしれない。が、その理由を考えれば考えるほどサリーに同情しこそすれ、別に非難に値するポイントには思えないのである。
子供の頃、交通事故で両親を同時に喪ったサリーとテリー(マーク・ラファロ)。サリーが離婚後子供のルディと住んでいる実家に金欠になったテリーが転がりこんで来たところからお話が始まる。「好きなだけここにいればいいわ」銀行に働きに出ている間ルディの世話を弟テリーに頼み、無断外出の問題解決やに思われたサリーだが、長年付き合っていたBFのプロポーズを断ったサリーは、あろうことか喧嘩の耐えなかった新任支店長との不倫にのめり込んでしまう。わちゃー。
テリーが現れてから明らかに情緒が不安定になりだしたサリー。神父(ケネス・ロナーガン本人)に相談しても拉致があかず、テリーがルディを実の親父に会わせようとしたことがきっかけで、姉弟の仲に決定的な亀裂が.....思うにこの2人、両親の死を受け入れられないまま大人になってしまった姉弟だったのではないだろうか。別れた夫に子供の世話を押し付けられたことのあるサリーは、テリーという頼れる弟が帰って来てくれたお陰で、束の間その責任から逃れようとしたのではないだろうか。弟の面倒を結果的に押し付けられたサリーのトラウマが不倫へはしらせたのかもしれない。
また、自分を父親のように慕ってくるルディに優しく接する弟テリーが、サリーの元夫の冷たい態度にぶちギレたのも、突如として両親がこの世から姿を消したトラウマが瞬間的によみがえったからに相違ない。サリーとテリーは、父親の愛を知らないルディを介した、いわば共依存関係にあったのではないだろうか。「昔はお互いよく助け合ったよね」そんな2人を突き放すのでもなく、あるいは、無理やり大人に更生させるでもなく、ひたすら温かい目で見守る眼差しが優しい秀作なのだ。
ユー・キャン・カウント・オン・ミー
監督 ケネス・ロナーガン(2000年)
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