ハリー・ポッターの次は(ファンタビではなく)おそらく本シリーズが世界を席巻するのではないか。原作本は3巻まで出版されていてすでに完結しているという。映画を見た限り、作家は戦争孤児のご経験がおありの故人ではないかと勝手に想像を膨らませたのだが、なんと私より全然年下の45歳アメリカ人が書いたというではないか。作家は古い写真の収集家で、元々はフォトブックとして出版予定だったものを、子供向けのファンタジーとして発表したところ大ブレーク、3作累計で全米1000万部を売り上げたというからおそれいる。
本作の中に“ホローガスト”と呼ばれる化け物が出てくるのだが、間違いなくナチスドイツによる“ホロコースト”を文字った名称だろう。一応現代のお話になってはいるが、ウェールズでミス・ペレグレンに匿われている子供たちは、第2次世界大戦末期の1943年9月3日を永遠に繰り返している“ループ”でしか生きられないという設定だ。空を飛べたり、素手で火をつけたり、植物の成長を早めたり...アメリカ人作家らしくX-MENに影響を受けたであろうキャラが数多く登場するのだが、その実力は化物に見つかったら一溜りもないほどヨワヨワだ。
もうお分かりのとおり、このダーク・ファンタジーの背景には、ホロコーストを逃れたユダヤ人の子供たちが優しいウェールズ人に守られた、という史実が隠されているのだ。一見奇想天外なお話にも思える本作ではあるが、異能を持っているがゆえに差別される子供たちは、そのユダヤ人の子供たちのメタファーともいえるのだろう。世間と交わろうと“ループ”を出た途端、時間に追いつかれ死ぬ運命にある子供たち。なんて悲しい性なのでしょうか。そのサッドなエッセンスを監督ティム・バートンが丁寧にすくいとっている。
永遠の命をさずかるため、悪党一味に目玉をくりぬかれて食べられてしまう異能の子供たちはまた、現在人身売買の犠牲になっている移民の子供たちを連想させる。その一部は、(若さを保ちたいセレブが常用している黒い噂がたえない)脳内麻薬をストレスを受けた子供の松果体から抽出するために命を喪っているというではないか。性奴隷や臓器売買目的で行方不明になっている子供と合わせると、その数なんと世界で毎年800万人以上。低賃金労働力の確保というよりは、むしろ子供目的でアメリカは不法移民を大量に受け入れているのではないか、そんな気さえするのである。
また加工食品や遺伝子組み換え食物、環境汚染の影響で、慢性疾患の子供たちが世界中で急増中だという。ビッグファーマにとってはその方が好都合という、非常に物騒な話まで噂されているのである。運良く健康に育った日本の子供たちも、日本がこのまま国力を落としていけば間違いなく、外国勢力による人身売買のターゲットにされてしまうことだろう。心ない大人たちの犠牲にされそうな子供たちの物語は、ただそれだけで現代社会の大人たちの心にもささる要素を持ち合わせているのだ。
ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち
監督 ティム・バートン(2016年)
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