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章立ての構成は一見『スティング』を思わせるが、ヴィトンのボストンバッグに入った500億ウォンの騙しとり合戦は、一粒の大粒ダイヤをめぐる大騒動を描いた、ガイ・リッチー監督の『スナッチ』によく似ている。計画的な犯罪と偶然によるラッキー&アン・ラッキーが重なり合い、大金が誰の手に落ち着くのか全く予想できないクライム・サスペンスだ。日本人作家曽根圭介による同名小説が原作となっているらしいのだが、おそらくコリアンバージョンに大幅に脚色されているにちがいない。
元詐欺師で空港審査官役のチョン・ウソンは、やはり本作においても引き立て役に回っている。誰の?って。ある時は精神を病んだシングルマザー、ある時は主人にオモチャにされる子煩悩の家政婦、そして本作においては、人を殺してもなんとも思わない冷血なサイコパスを演じた韓国を代表する演技派女優チョン・ドヨンその人のである。一応ウソンとドヨンは元恋人という設定の役柄なのだが、演技的にもストーリー的にも、ウソンは鮫女ドヨンに終始食われっぱなしなのである。濱口竜介が嫌いなメソッド法のお手本のような演技を本作で見せてくれているニダ。
それに引き替え、ウソンが見せるべき、韓国映画お得意のコメディパートがまったく笑えないのはこれいかに。デメキンなる詐偽の相棒や、ヤクザの金貸し、高校の先輩刑事との間で繰り広げられるコントのノリがウソンの能面顔のせいですっかり台無しになってしまっている。ここをもっと面白おかしくし見せていれば、鮫女ドヨンのパートの残虐さがより際立つメリハリのついたサスペンスになっていたにちがいないのである。
ウソンが呼び寄せたカモは一体どこに消えてしまったのか。なぜドメバイ女に自分と同じ刺青を入れさせた上で◯◯◯◯にする必要があったのか。韓国の出国規制をかいくぐるために、なぜウソン演じる審査官の協力が必要だったのか。結構細かい部分の説明が意図的に省かれており、よくよく考えてみるとちゃんと辻褄があっている緻密なシナリオにも是非とも注目したい1本だ。但し、ラストのご都合主義はちと疑問。サウナのみならず空港のコインロッカー監視ビデオにもしっかり映っていることを忘れずに。
藁にもすがる獣たち
監督 キム・ヨンフン(2020年)
オススメ度[
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