ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

震度0

2008年04月24日 | 映画評じゃないけど篇
阪神大震災に見舞われた近県の県警で警務課長が疾走。キャリア、ノンキャリアがない混ぜになった複雑な人事構成の県警幹部たちは、大震災などそっちのけで、ある者は保身に走りある者は野心丸出しで手柄を一人占めしようとする。情報を握り合う幹部たちのせいで、疾走事件捜査は遅々として進まない。署内不倫、贈賄、別件の殺人などが複雑に絡み合う事件の意外な真相は、結局県警の捜査ではなくある人物の告白によってようやく全貌が明らかになる。

事件そのものよりも、その事件を捜査する組織の問題点を暴き出した本書は、横山秀夫の真骨頂ともいえる作品だ。事件解決が自らの出世に結びつかないとわかった途端、いままで分裂の極みをみせていた県警幹部たちが一気にモミ消しの方向へ一致団結するくだりなどは、組織の醜さというかお偉いさん方の腐り具合が大変うまく描かれている。この辺の描写では筆者の右に出る者がいないほどの筆の冴えを見せている。

何千人という死者を出した大地震(優秀な警察仲間の悲劇)を目撃しながら、ひたすら波風を立てまいと知らぬ存ぜぬを貫き通す県警幹部。『震度0』とは、組織というものがが究極的に望む状態であり、何が起きても体面を取り繕うとする組織の非情な無関心を暗喩したタイトルでもあったのだ。組織幹部たちにとって、事件は常に会議室で起こっているのであり、現場で起こっている実際の出来事など本音ではどうでもいいことなのだ。その組織の後ろ盾が無くなった時、こういう人たちはどこで何をより所にして生きていくのだろう。むき出しになった軟い肌は、きっと現実の摩擦に耐えられないはずだ。

著者 横山秀夫(朝日文庫)
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