ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

ブレス

2009年07月29日 | ネタバレなし批評篇
郊外にすむ韓国のブルジョア家族。音楽家らしき浮気夫(ハ・ジョンウ)と満たされない結婚生活を送っている妻ヨン(チア)は、ある日自殺未遂した死刑囚(チャン・チェン)の報道をTVで見かけ、刑務所へ会いに出掛ける。夫へのあてつけともとれる妻の狂気の行動は、不道徳がゆえにある種の純粋さを感じさせる。

ヨンが死刑囚に会いに出かける道中の殺伐とした心象風景と対照的に描かれるのが、接見部屋で繰り広げられる四季の祭典?だ。春夏秋の風景写真をバックに、季節ごとの歌謡曲を女優に歌い踊らせたギドクの演出は、驚くべきことに本作品において成功している。ほとんど科白らしい科白がないシナリオの中で、場違いに明るいヨンの歌声は<生への応援歌>というよりも、いつかおとずれるであろう決定的破局を本能的に察知している女の破滅的抵抗なのだ。

生きることに何の価値を見出せない2人がお互いの息(ブレス)を奪い合うように接吻する様子を、監視カメラでじっと見守る保安課長をギドク自らが演じている。海外での高い評価とは正反対に、儒教の影響が強い本国ではむしろ問題監督扱いされているキム・ギドク。世間の手垢にそまらぬように、インモラルな鎧をまとった作品を発表し続けるギドクからは、なぜかカンヌの変態男ミヒャエル・ハネケと同じ臭いが漂っている。

不条理ゆえのピュアネス、ピュアネスゆえの不条理。キム・ギドクという人が、一見相反するこの2つの言葉が表裏一体であることに気づいている数少ない映画監督の一人であることは間違いないだろう。すでにベルリンやヴェネチアで評価されてしまっているのでカンヌに招かれる機会は少ないのかもしれないが、その際はハネケと途中退席者数を是非競ってほしい監督さんである。

ブレス
監督 キム・ギドク(2007年)
〔オススメ度 

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