ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

フリック

2009年05月18日 | ネタバレなし批評篇
カンヌでは注目されるのになぜか国内ではさっぱり。そんな映画監督が河瀬直美の他にもう一人いる。小林政広その人だ。“奈良”という日本の原風景を売り物にした河瀬作品とは異なり、小林の作品にはフランスのフィルム・ノワールを思わせる垢抜けた雰囲気がどこか漂っている。若い頃トリュフォーに憧れて渡仏を果たした経験がいかされているかどうかは定かではないが、フィルム・ノワールをパロったような軽妙な感覚が、好む人には好まれる“通”受けする監督さんである。

映画タイトルの“フリック”とは仏語で刑事のことをさすらしい。妻をシャブ中のヤクザに殺されて以来酒浸りの主人公・村田(香川照之)の職業だ。東京のラブホテルでおきた猟奇殺人事件の捜査協力を同僚の滑川(田辺誠一)から依頼され、殺された女が住んでいた苫小牧を2人で訪れるのだが・・・。寂れた町にある安下宿やバーで、村田はひたすら酒を飲みまくる。現実と妄想の境界があいまいになり、次第に同僚の滑川や地元警察さえも疑い出す村田。

最終的には現実と妄想の区別を放棄してしまう映画のプロットは、(デビッド・リンチというよりは)ミヒャエル・ハネケの『ファニー・ゲーム』を思い起こさせる。村田の妄想(あるいは現実)の中で、現地の刑事・佐伯が語った言葉が印象的だ。「真実はいろいろあるけれど、残される事実は一つってことだ」うらぶれた町には場違いなオサレなバーを経営するファム・ファタール役の大塚寧々の存在さえ現実とはいいきれないこの映画において、意外性のあるプロットなど「そんなことはどうでもいいんだ」という気にさせられるファジーさが魅力の1本である。

フリック
監督 小林 政広(2004年)
〔オススメ度 

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