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辻褄が合わない事実は全て神のせいにして逃げるのが西洋合理主義の限界だ、と言ったのは誰だったか。その形而上学的事実を、グレッグ・イーガンは最先端科学のフィルターを通して、あくまでも実存主義的に説明しようと試みる。
イーガン入門書として『しあわせの理由』をあげる方が多いが、私などは本短編集の方がむしろとっつき易く感じられた。〈宝石〉〈タウ〉〈アトラクト〉…イーガン用語集にあまり馴染みのない私にさえ、各短編が言わんとするテーマがきわめて明確に伝わってくるのはなぜだろう。
仏教学者中村元は、捨てるべき自己と守るべき自己があると教え子たちに説いたそうだが、本短編集の主人公たちもまた、生前輪廻に人造赤ちゃん、脳内バックアップに未来日記、パラレルワールド等によってアイデンティティーをバラバラに引き裂かれてもなお、自我にこだわりもがき続ける姿がなんともいたましくかついとおしく感じられるのだ。
安易な信仰に頼ることもせず、科学的見地から自我を冷徹に観察する作家の視線は、ある意味悟りの境地に達した仏陀のようでもある。いわゆるSF的なオチもなく、ひたすら内省を繰り返す主人公たちの姿は地味でビジュアルにはむいていないのかもしれない。が、もしも映像化することができたとしたら、とてつもない名作映画になりそうな予感がするのだがどうだろう。
祈りの海
グレッグ・イーガン作(ハヤカワ文庫SF)
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