ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

インポッシブル

2024年04月28日 | ネタバレなし批評篇

本作が全米で公開されたのは2012年。東北大震災が起きた翌年だったせいか、2004年のスマトラ沖地震による大惨事を生々しく描いた本作の日本公開は2013年まで見送られた。それほどに津波による被害の様子がリアルに描かれているということなのだろう。監督のJ・A・バヨナは直近作品でも実際に起きた飛行機墜落事故をテーマに選んでいたが、ディザスターそのもののスペクタルに頼ることなく、事故が起きた後人々がいかにサバイバルしたのかを多分綿密な取材を元に映像にうつしとっているに違いない。“事実”ならではの重みがスクリーンから確かに伝わってくるのである。

大津波によって生き別れた5人家族。ナオミ・ワッツ&トム・ホランド組とユアン・マクレガー&弟2人組に引き裂かれた家族が、お互いを探し合い奇跡の再会をはたすまでの感動ストーリー。プールサイドにいたナオミは大津波にさらわれ気がついたら濁流に流されていた。偶然近くで同じように流されていたホランドの叫び声を聞き2人はなんとか一命をとりとめる。高波が再度襲ってきても平気なように、途中救助した幼児とともに高枝の上で待機する3人を、地元の人々が病院に運んでくれたのだが....

兎に角ナオミ・ワッツの40代でもまだまだいけてるボディがズタボロなのである。流されている最中、流木が刺さった影響で、胸と脚に大怪我を負ってしまうのだ。当然この時ユアンと弟たちの命はほとんど諦めていたわけで、かすり傷ですんだホランドを見つめながら「この子にはもう私しかいないの」と看護婦にかすれ声で訴えるナオミ。怪我人はほとんどバカンスに訪れていた白人ばかりで、看護する人々が地元民という設定は、ヨーロッパ各地で最近よく見かける難民キャンプの逆バージョンであることに気づかれることだろう。何かしら因果関係を感じさせるバヨナの確信犯的演出だ。

そして後半、てっきり流されて死んでいたと思っていたユアン&弟たちが実は生きていて、ユアンはナオミ&ホランドを決死の思いで捜索し始める。なかなか2人が見つからず気持ちが萎えかけていたユアンは、親切な男が貸してくれた携帯でナオミの父親に電話をかけると「みんな波にさらわれた」と泣き崩れるのだ。『異人たち』のアンドリュー・スコットもうまかったけれど、このユアン・マクレガーの泣きっぷりも相当なものだ。普段クールに気取った印象があるだけに尚更そう感じるのかもしれない。

そして奇跡の再会....涙腺が緩みっぱなしですっかりディザスターのことなど忘れかけていた観客の不意を突くように、手術中のナオミに事故当時の模様を回想シーンとして思い出させるのである。圧倒的な自然の力でなす術もなく海中を翻弄させられるナオミ。冒頭大津波がおそってきたと同時にブラックアウトした時の記憶をここで再現するとは、バヨナなかなか侮れないスペイン人監督さんなのである。まだまだ生死が判明しない家族がいる皆さんを残して、ナオミ一向は家族揃ってタイを脱出する。何もなかったかのように静かに広がっている海面を眼下に眺めながら....この明暗こそが自然本来の姿なのだといわんばかりに。

インポッシブル
監督 J・A・バヨナ(2013年)
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