ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

隠された時間

2024年06月12日 | ネタバレなし批評篇

巨匠パク・チャヌク監督のもとで修行をつんだというオム・テファによる商業長篇映画デビュー作。2016年公開の本作は、見た目ジュブナイルSFファンタジーの体裁をしているが、2014年に起きた『セウォル号事件』から生じたある疑念に基づいて作られているという。孤児である中学生男子が数日後大人の姿になって少女の前に姿をあらわすといった荒唐無稽なストーリーなのだが、事件に興味を持った作家(ムン・ソリ)が主人公の女の子にビデオインタビューする冒頭シーンを観ていると、背景に何かしらの“FACT”があることを伺わせるのである。

『フローズン・タイム』や『1秒先の彼女』、直近の『わたしは最悪』などでお馴染みのストップ・モーションシーンは、確かに観ていて楽しい気分にさせられる。しかしソンミン(カン・ドンウォン)とその友人は、動かない時間の中に死ぬまでずっと閉じ込められる恐怖に怯えはじめるのだ。その間ずっと洞穴の中で“フローズン”していたスリンは子供の姿のまま、大人の身体なったソンミンから不思議な経緯を聞いてそれを受け入れる。しかし警察は、そんなソンミンを行方不明になった子供たちの誘拐犯と決めつけてしまう。

行方不明になった4人のうち一人だけ家に戻ってきたスリン。周囲の大人たちは、スリンの義父が発破工事による事故隠蔽のために狂言誘拐を企てたと疑い、生き残ったスリンを責め立てる。つまり“誰かのせい”にしなければ収まりがつかない大人たちが、韓国にも日本にもたくさんいるということなのである。『セウォル号事件』については、船長以下セウォル号乗務員全員が有罪、乗船していた修学旅行中の中学校教頭が自殺、当時の大統領朴槿恵は本事件をきっかけに辞任に追い込まれてしまう。

ソンミンから聞かされた嘘のようなおとぎ話を信じる大人など誰もいるはずもがなく、警察はスリンに「犯人に脅迫された」と嘘をつけと勧められ、追い詰められたソンミンは「自分が誘拐して殺したことにすればいい」と自暴自棄になってしまう。「何も事件が起こらなければ、今頃は手をつないで笑い合っていたのかも」子供の心を失わないまま大人になったソンミンは、自らの青春時代と引き換えにスリンの命を救うのである。

韓国左翼がこのセウォル号事件を利用し、朴保守政権を打倒しようと試みたのは想像に難くないだろう。だが、その政争や私利私欲とはまったく関係なしに、若い命をただ助けるために自己犠牲を厭わなかった一般人もいたらしいのである。傾くデッキに“宙吊り”になりながら、船内の消防ホースで生徒たち20人の生命を救った“青ズボンの義民”と呼ばれる男が。ラスト、フェリーに乗ってじっと海を見つめるソンミンの姿は、事件後精神的トラウマによって生活破綻したというこの男をモチーフにしていたのかもしれない。

隠された時間
監督 オム・テファ(2016年)
オススメ度[]


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