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ナンニ・モレッティ本人のナレーション「親愛なる日記くん」から始まる本作は、モレッティ自身の肺癌闘病あけに撮られているせいか妙に明るい。今までのシリアスムードな作風はほとんど感じとれないといってもよいだろう。私は、サーシャ・バロン・コーエンが撮ったモキュメンタリーにどこか雰囲気が似ているような気がしたのだが、さすがにイタリア人としての美学がそれを許すはずもなく、お下劣きわまりない下ネタは一切なしなので悪しからず。
グレゴリー・ペックよろしくベスパに跨がって地元ローマの街をフラフラと走り回るだけの『ベスパに乗って』。日記兼本作のシナリオを書くためにイタリアの個性あふれる島々を巡る『島めぐり』。そして、モレッティ本人が癌と分かるまで医者をたらい回しになったくだりを皮肉タップリに描いた『医者めぐり』の3話オムニバス型式になっている。おそらく、大量の薬を処方するだけで、適切な医療を提供しないイタリア医学協会に対して、文句の一つでもいっておかなければ気がすまなかったにちがいない。
そんな個人的な恨みごとがベースになった非常にパーソナルな作品でありながら、本作はなんとカイエ・ド・シネマその年のベストワンに選ばれたというから驚きだ。普通の映画ならまずランキングされない批評誌だけに、評価をそのまま鵜呑みにするととんでもないことになるので注意が必要なのだが、日本人の方がご覧になるとおそらくすべりっぱなしのイタリアン・ジョークが絶妙の隠し味となっている。
もはや野ざらしになって誰も訪れる人がいなくなった、大先輩パゾリーニが右翼に殺された場所を、どこか感慨深げに見つめるモレッティ。そして、ロッセリーニとバーグマンが初めてタッグを組んだ映画『ストロンボリ』をまるで茶化すかのように、テレビ中毒になった友人に頼まれ観光で来ていたアメリカ人にソープオペラの顛末を聞きに行くモレッティ。死化粧ならぬ長袖&ハイソックス姿で一人砂浜に座り込むモレッティの姿は、『ベニスに死す』のダーク・ボガートをなぞったのだろうか。
全編、ジム・ジャームッシュ風の心地よいオフビート感につつまれているものの、時折監督モレッティの心のすきま風に吹き込む寒風が“死”を予感させる、どこかしら哀愁漂う1本でもあるのだ。劇中でも紹介されている化学薬物療法が功を奏し、映画界に無事復帰できたモレッティにとってもやれやれといったところだったのだろう。もしかしたらこのまま帰らぬ人に....そんな心の緊張がほどけて、フッ~と一息ついた巨匠の安堵感がほどよくブレンドされている不思議な作品なのである。
親愛なる日記 レストア版
監督 ナンニ・モレッティ(1993年)
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