ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

剣岳 点の記

2010年04月27日 | 激辛こきおろし篇
黒澤明監督『用心棒』などで撮影助手(撮影監督ではない)をつとめた木村大作は、その後、岡本喜八や深作欣二らと組んで日本映画低迷期をささえたカメラマン。その木村が70歳になって初めて監督した映画が、この『剣岳 点の記』である。前人未到の剣岳初登頂をねらって陸軍陸地測量部と日本山岳会がしのぎをけずる新田次郎の原作を映画化している。

本作の撮影を“行”と呼んで、極力CGには頼らず、主演の浅野忠信をはじめ俳優陣たちにも厳しい“行”を課したという。しかし、その効果が本作の中でいかされていたかどうかははなはだ疑問である。似たようなシチュエーションのドイツ映画『アイガー北壁』とよく比較される本作ではあるが、優っていたのは剣岳登攀にいたる準備段階、長次郎(香川照之)に案内されて陸地測量部のリーダー・柴崎(浅野)が紅葉の美しい立山連峰をハイキングするシーンまでである。メイキング等で撮影の大変さをやたらとアピールしていたが、そういうことは過去のドイツ山岳映画などを一通り研究してから言ってほしいものだ。

蟹の横ばい・縦ばいと評される頂上直下の険しいルートにはいまや鎖が付いてハイカーでも登れる簡単な山になってしまっているせいか、肝心かなめの剣岳山頂アタック・シーンが(あろうことか)すっぱりカットされてしまっている。気の遠くなるようなロングショットで雪渓をトラバースする豆粒のような隊列をとらえるだけではやはり何か物足りない。『アイガー北壁』のようにザイルで宙吊りになるようなルートではないにしても、それなりの専門家の考証をつければもっと手に汗にぎる登攀シーンが撮れたはずなのだ。気持だけではリアリティの壁を超えることはできないいい証拠である。

「編集次第で映画はどうにでもなる」と(木村が師と仰ぐ)黒澤明は語っていたそうだが、本作においてはその編集の拙さがやたらと目についてしまう。猟銃で撃たれたクマが雪渓を滑落するシーンなど、アナログでピントを合わせる技術は大したものなのかもしれないが、本編のストーリーとは何ら関係ない単なる腕自慢ショットをわざわざ挿入する必要があっただろうか。映画のリズムを悪くするだけでなのに・・・・・・余計なシーンをやたらと盛り込んだ割には、(いい絵がとれなかったのか)クライマックス・シーンは編集でカットしてしまう。カメラマン出身である映画監督の限界を感じる1本だ。

剣岳 点の記
監督 木村 大作(2009年)
〔オススメ度 

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