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原作者スタニスワフ・レムに「お前はバカだ」といわしめた芸術至上主義者アンドレイ・タルコフスキーが世界的注目を浴びるきっかけとなった本作。旧ソ連時代に撮られた本作は、キレイにレストアされたバージョンをYouTubeで無料で鑑賞することが可能だ。ウクライナ侵攻に対するプーチンなりの贖罪なのかはわからんが、日本語字幕はかなり怪しい代物だがそれなりに意味が通じるので、SFファンならば是非この機会に一度見ておくことをおすすめする。
「タルコフスキーが作ったのはソラリスではなく罪と罰だった」とレムに酷評されたこの映画、原作とはかなり異なったストーリーになっているらしい。惑星ソラリス上に浮かぶ“駅”と呼ばれる宇宙ステーションに地球から派遣された心理学者クリス。Solarisの海がもたらした10年前に死別した妻ハリの“訪問”にすっかり心をかき乱されてしまう。先乗りしていた科学者からの忠告「科学的探求にラブストーリーを持ち込まんでくれ」とは、まさに原作者レムの苦言をそのまま拝借した台詞ではなかったか。
タルコフスキーへのオマージュ作品ラース・フォン・トリアー監督『メランコリア』にも登場したブリューゲル作『雪中の狩人』を、“訪問者”ハリがじっと見つめるシーンがある。どんな科学的探求心も道徳心なくては、すべては徒労のはての無益な“狩”に終わる。映画序盤に登場する日本の首都高速道路も旧ソ連の映像詩人の目には、道徳心なき人間が作り出した醜いテクノロジー・モンスターとして映ったのではないだろうか。
本作公開直後にキューブリックの『スペース・オデッセイ』を鑑賞したタルコフスキーはまた、「最新科学技術の業績を見せる博物館に居るような人工的な感じがした」「キューブリックはそうしたことに酔いしれて、人間の道徳の問題を忘れている」とコメントしている。とかく難解と評されることが多いタルコフスキー作品ではあるが、自己投影作品的な見方をすれば、黒澤明のいう通りわりとすんなり理解できる気がするのである。
幼少期に家を出て行った父親への憧憬、母親の偏愛と確執、離婚した妻と子供への想い.......自伝的作品といわれている『鏡』同様に、この前衛的SF作品の中には、Solarisの海によって照射されたタルコフスキー自身の心の葛藤がそのまま映し出されている気がするのである。「恥は人類を救う感覚だ」やがてクリスの脳波がプログラムされたX線が海に向かって放射され、クリスいなタルコフスキーの罪の意識を象徴していた訪問者ハリは姿を消してしまう。
その代わりにSolarisの海に浮かび上がった島には、懐かし故郷の家が建っていた。家から出てきた父親にすがりつく疲れきったクリスはこの時、父親=神から赦しを得られたのだ、と思いたい。
惑星ソラリス
監督 アンドレイ・タルコフスキー(1972年)
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