ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

白夜

2020年09月03日 | 誰も逆らえない巨匠篇

てっきりベネチアが舞台だと思いきや、チネチッタの中にわざわざ運河を作り橋までかけて築いた架空都市のセットだという。空襲による爆撃跡が残る壁、橋の下で暖をとるホームレスたち、空から作り物とは思えない雨や雪まで降らせて、夜明け前に起きたある奇跡を大いに盛り上げている。

この街に転勤してきたばかりのサラリーマン、マリオ。綺麗な女性と見るや声をかけないではいられない、典型的イタリア系チョイ悪男を、若き日のマルチェロ・マストロヤンニが、泣いていたと思ったら次の瞬間もう笑っている相手役のナタリアを、オーストリア出身のブロンド女優マリア・ルイーザが演じている。

ある晩、橋の上で泣きじゃくっていた若い女をほおっておけず声をかけるマリオ。ナタリアと名のるその女、自分はスラブ系で待ち人が表れず泣いているという。このナタリアを見ていてふと『道』のジェルソミーナを思い出したのだが、オツムがちょいと弱いのかなあと思えるほど、いつも泣いているか笑い転げているかのどちらかなのである。家の下宿人と交わした1年後にまた会おうという約束を、かたくなに信じて続けている不思議ちゃんなのだ。 

ナタリアの涙と笑顔が同居しているようなこの表情こそ、実はヴィスコンティの狙いであることに観客は徐々に気づかされる。光と闇、若者とホームレス、活気と貧困、雨と雪…この二項対比的演出は、昼と夜が同居する“白夜”という原作タイトルから巨匠がイメージしたものではなかったのだろうか。ラストのドラマチックな奇跡さえリアリスティックに思えるそのメタ現実空間を作り上げるための巨大セットであり、そのオペラ的演出だったのではないだろうか。

以前からマリオに対し色目を使っていた娼婦の誘いを、ナタリアにふられたはずみで思わず受けてしまうマリオ。案内された場所がなんと橋の下。老婆が焚き火で暖をとっている横にポツンと置かれた子供用の椅子。まさかこんなところで…娼婦を突飛ばし思わず逃げ出したマリオは、その場にいた男たちから袋叩きに合うのだ。『山猫』のサリーナ公爵のような清濁合わせ飲む度量を持ち合わせていなかった男は、この不思議空間では一人除け者にされるしかなかったのである。
 
白夜
監督 ルキノ・ヴィスコンティ(1957年)
[オススメ度 ]


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