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カーラジオから聞こえてくるのはG.W.ブッシュ大統領再選と民主党の無力を嘆くニュースばかり。9.11を経験したアメリカはこの後対テロ戦争へと突き進む。ネオコンと癒着した副大統領チェイニーが実質的運営を任された共和党政権にほとほと嫌気がさしたアメリカ人は、史上初の黒人リベラル大統領バラク・オバマを誕生させることになるのである。
そんな当時のアメリカを憂える厭世的雰囲気がそこはかとなく漂っている映画なのである。冒頭、近所に響く子供の遊び声、隣家の芝刈機やジューサーミキサーの騒々しい雑音によって、瞑想を妨げられるマイク(ダニエル・ロンドン)が主人公。そんなマイクに、ヒッピーのような生活をしている高校時代の同級生カートからキャンプのお誘いが....身重の妻に了解をとろうとすると「どうせもう(行くことに)決めているんでしょ」の素っ気ない返事...
さえない親父たちの一泊2日のキャンプトリップを描いた中編ロードムービーなのだが、道に迷って目的地の温泉になかなかたどり着けないカートとマイクは、明確な方向性を失って漂流を続けていた当時のアメリカそのものだ。身重妻から頻繁にかかってくる電話の受け答えにも、どこか不安やイラつきを隠せないマイク。温泉がなかなか見つからずに仕方なく夜営地に選んだ場所には、(9.11跡のような)不法投棄されたゴミが散らばっていた。
「これじゃ都会も森もおんなじた」「ずっと(ゲイ)友だちでいたいのに、お前との間にはいま壁がある」と嘆くカート。古い友だちを失って悲しむ“オールド・ジョー”のように。言葉少なに荷物をまとめた二人は翌朝目的地の野天温泉場にたどり着く。野鳥が囀ずり深い緑に囲まれたその地ですっかり癒されたマイクは、カートが以前見たという夢の話を聞かされる。なぜか動揺しているカートを抱き締めながらインド人のオバサンが「大丈夫、悲しみは使い古した喜び(オールド・ジョイ)なのよ」と夢の中で呟いたのだと。
ベトナム戦争期によく作られたアメリカン・ニューシネマと似たような作風ながら、作品のどこかに“癒し”を覚えるケリー・ライカートには、日本のひなびた温泉を舞台にした作品を撮ってほしい。いいしれぬ将来に対する若者の不安を癒すような映画を是非作ってほしいのである。バーチャルとリアルの区別さえあやふになった世界で拠り所を完全に見失っているように見えるからだ。ライカートの作品を見て別に生き方を劇的に変える必要はない。探し物(本作のテーマ)が見つからなくたって大したことじゃない、手に届く束の間の癒しに触れる、ただそれだけでいいのだ。
オールド・ジョイ
監督 ケリー・ライカート(2006年)
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