ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

百万円と苦虫女

2009年02月12日 | ネタバレなし批評篇
『赤い文化住宅の初子』で非凡な才能を見せたタナダユキ監督の長編2作目にあたる。前作と同様、世間とどこか隔絶した生き方をする女の子を主人公にすえた物語はタナダ・オリジナルの脚本だ。

初子と世間を隔てていたのは“貧乏”というキーワードだったが、本作品で蒼井優演じる佐藤鈴子が、日本各地を転々とする原因になったのは“前科”。ルームシェアをした冷たい男への腹いせが原因で、罰金20万円の軽罪ながら鈴子の人生にこの“前科”が常につきまとうようになる。そんな自分から逃げるように、鈴子の自分を探さない旅が始まるのだが・・・。

優等生でしっかり者の弟(実はいじめられっ子)と職を求めて引越しを繰り返す姉(鈴子)という構図は、どこかあの寅さんを思い出す。しかしこの鈴子、寅さんのように金欠のたびに家に舞い戻るといったような女々しい行動はけっしてとらない。百万円たまるまでは、財布と心の紐をきっちり引き締めて、なるべく世間とは関わらないようにひっそりと生きていこうとするのだ。

一人暮らし=自立と勘違いしている若者をよく見かけるが、真の意味の自立とは何ぞやということをふと考えさせられる1本でもある。いじめっ子に立ち向かう決心をした弟の拓也にしても、すでに精神的には自立しているといえるし、バイト先で鈴子が知り合った大学生にしても、いらぬおせっかいが招いた皮肉な結果から学んだことは多かったはず。そして何よりも、地に足をつけてしっかり生きていくとを決意したラストの鈴子の晴れ晴れとした表情は、世間にまるめこまれることなく真摯に生きていこうとする者へ勇気を与えてくれるのだ。

百万円と苦虫女
監督 タナダ ユキ(2008年)
〔オススメ度 

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ハリーとトント | トップ | いのちの食べ方 »
最新の画像もっと見る