本作を見て、8年前の東北大震災で原子力発電所全機が停止、電力不足の結果計画停電が実施されたことを思い出された方も多かったのではないか。
電車という電車が全てストップ、幹線道路はどこも車渋滞で身動きがとれず、スマホがまったく繋がらないという当時の状況は、本作の設定と非常に似ている。かくいう私も会社から自宅まで8時間かけてとぼとぼ歩いて帰ったことを今でも鮮明に覚えている。
原因不明の世界停電、生活を電力に頼りきっていた家族はいきるすべをいきなり奪われてしまう。行き詰まった家族は仕方なく、人力で奥さん(深津絵里)の故郷鹿児島を目指すのだが…
本作は一種のロードムービーになっているのだが、旅の途中で不必要なモノを断捨離していく様が面白おかしく、時にシリアスに描かれている。スマホはもちろん、お金やブランド品、お父さん(小日向文世)のズラ等が全く役に立たないものとして登場するのだ。
水や食料が確保できず次第に弱り果てていく家族。キャットフードとバッテリー液で食いつないできた家族が久々にありつけたお新香と白マンマのご馳走がおいしそうなこと。苦を経験してなければわからなかった至福の一時だ。
さらに西を目指す家族に次々と襲いかかる試練を描きながら、“生きるために本当に必要なもの”が次第に浮かび上がってくるヤグっちゃん演出は今回なかなか冴えており、本作を単なるコメディに終わらせてはいない。
自分の身に置き換えるならば、生け簀の魚を干物にして食い繋ぐか、養豚場のおじさんの家にそのまま居候するのがせいぜいといったところ。人間の帰巣本能だけではない“家族の絆”があったからこそ、この家族は鹿児島まで無事にたどり着けたのではないだろうか。
サバイバル・ファミリー
監督 矢口史靖(2016年)
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